極東4th
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 何、これ。

 吹雪と、倒れている美濃。

 そして、対峙していたのは──甲斐と真理だった。

 元の大きな身体を、更に大きくした男が、真理に拳を振り上げる。

 一瞬。

 早紀は、強く目をつぶった。

 その拳に、彼が吹き飛ばされるビジョンが浮かんだからだ。

 しかし。

 再び、目を開けた早紀を待っていたのは、立ったままの真理と、雪に縛りあげられてゆく甲斐の姿。

 カシュメルの男は、容赦なくイデルグの息子を打ち倒そうとしている。

 いつも、早紀が感じる『冷ややかさ』などというレベルを、超越しているどころではない。

 これではまるで──殺し合いだ。

 なんでとか、どうしてとか。

 そういう言葉は、山ほど頭をめぐる。

 しかし、原因だけは分かった。

 自分、だ。

 これは、おそらく所有権の争いなのだ。

 戸惑った。

 所有権争いの殺し合いを、反射的に早紀は止めようと思ったのである。

 だが、戸惑ってしまった。

 真理を呼ぶ言葉を、彼女は持っていなかったのだ。

 何ひとつ。

 本当に、何ひとつ持っていなかった。

 ああもう。

 自分が、情けなくなる。

 認めてくれて好いてくれるなら、相手は真理でなくてもよかった。

 ふらふらと、漂っていただけの自分。

 早紀は、積もった雪を強く踏みしめる。

 ああ、どうせ。

 どうせ、最初から嫌われていたんだ。
 
 唇を大きく開ける。

 吹雪に負けないほどの。

「真理!」

 そして、初めて呼んだ。

 呼び捨てだ。

 これ以上嫌われたって、何も変わらないではないか。

 これ以上嫌われたって──出ていけなんて言われないのだから。

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