極東4th
 窓は、開いていた。

 そして、風が微かに吹いていた。

 その風が、実は吹いたのではなく、連れてきた者がいたという事実を知ったのは、早紀が顔を上げた時で。

 涙まみれの視界の中。

 早紀は、舞い戻った魔女の足を見るのだ。

 ホウキから伸びる、綺麗な足を。

 飛び去ったはずの貴沙が、反転してきたのだ。

 ホウキは、降りてきた。

 そして、早紀を睨むのだ。

「貴沙」

 葵の呼び掛けを無視して、彼女は早紀に手を伸ばす。

「ああそう! あんたでもいいんだ!」

 胸ぐらを捕まれ、怒鳴られる。

「あんたでも、役に立ったのね! ああ、ムカつくわ!」

 何を怒っているのか。

 ゆさぶられながら、早紀はもう一人の自分を見るのだ。

 怒りの向こうに、悔しさが見える。

 役に――ああ。

 さっきの、葵の問いかけを、彼女は聞いていたのか。

 葵は生き延びたのか、という話だ。

 貴沙ではなく、早紀がいたのに生き延びた。

『私』がいなくても葵は生きられる。

 そこが、悔しいのか。

 本当に。

 本当にこの人は、私の真反対なんだと、早紀は思った。

 早紀は、お姫様になりたがった。

 だれか助けて、と。

 でも貴沙は、王子様になりたかったのだ。

 そして、葵を救いたかった。

 美しいけれども、衝動的で短絡な魔女。

「あんたを殺したら、どうなるの? あんたにこの珠を飲ませたら?」

 早紀の無反応ぶりが腹立たしかったのか、支離滅裂な事を言いながら、貴沙は珠を握ったままだろう拳を振り上げる。

 刹那。

 早紀は、笑ってしまった。

 存在が消えることは、とても恐ろしいというのに。

 殺されるという言葉は――塵ほども怖くなかったのだ。
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