極東4th
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 夢の中。

 今日は、早紀はちゃんと歩いて入れた。

 相変わらず、真っ黒な鎧が待っていてくれる。

「昨日は、どうもありがとう」

 自分を助けてくれた男に、早紀はお礼を言った。

 おかげで、すっかり痛みもなくなり、動けるようになったのだ。

 すると。

「ぶっ…ぶふっ…お、お前、バカだろ?」

 突然、鎧をガチャガチャ鳴らしながら、男は爆笑するではないか。

 こんな滑稽なことはない、と言わんばかりだ。

 え? あれ?

 お礼に爆笑が返ってくるとは、思わなかった。

 確かに、この鎧も魔族側のものなのだから、お礼なんてものを素直に受け取ることはないのかもしれないが。

「大体…よくお前、今日歩いてこれたな」

 オレの見立てじゃ、全治一週間だと思ったがな。

 まだ、笑いの波動を含む言葉で、しかし、不思議そうに早紀を見る。

 それほど、あの傷はひどかったということだろうか。

「おかげさまで…」

 早紀の言葉は、また鎧を笑わすだけとなった。

 あ、そういえば。

 笑う彼を前に、早紀は何かを思い出そうと意識を巡らせる。

 夢の中のことを現実に持ち出したり、逆をするのは意外に難しい。

 今日、真理に鎧の言葉を説明する時も、そうだった。

 その真理が、彼女にこう言ったのだ。

「鎧と話が出来るのなら…『抜け殻でもいいのか』、と聞いておけ」

 そう聞けば分かると。

 それ以上の説明は、真理はしなかった。

 ようやく言葉を捕まえられたので、早紀は鎧の前で復唱した。

「新当主からのご質問か…へぇ、なるほど…なんとなくお前が元気な理由がわかった」

 興味深そうな、しかし、少し意地の悪い声の音。

「じゃあ、こう伝えておけ」

 兜が、早紀に向かってずいっと近づいてくる。

 よく見ると、顔の造型が結構怖い気がする。

「『抜け殻上等』…ってね。」

 すっごい──悪そうな声だった。

 その後で、ぼそりと。

「お前の魔力は、かなり少ないな…不便だぞ」

 とばっちりで早紀は、文句を言われるハメになった。
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