ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!

 天井の高い、格式あるホテルの一階。目の前に置かれたアールグレイの湯気の向こうで、彼はふいに端正な顔を歪めた。

「結婚となると、君ではうちの家柄と釣り合わないんだって言われてね」

 えっ? 今、なんて?

 耳を疑い、頭の中で反芻してようやく、私は彼の言葉の意味を理解した。彼を見つめたまま、ラウンジのざわめきがすうっと遠のいていく。

「俺も悲しいんだ」

 彼は気まずそうに、私から目を反らしてそう言った。


 白石誠一郎、三十五歳の心臓外科医。彼は名門出身のエリートドクターだ。仕立ての良いスーツを着こなしたその姿は、知的で誠実そうに見える。

 彼と出会ったのは五年前。当時の私は看護師になって日が浅く、地方から出てきたばかりで、都会の空気にも病院の独特な緊張感にも馴染みきれていなかった。
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