ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 失敗ばかりの自分に嫌気がさした当直の夜。誰もいないはずの廊下の隅で泣いていた私に、そっとハンカチが差し出された。

『泣けるうちに泣いておいた方がいい。強くなったら、泣けなくなるから』

 そう言って気遣わしげに微笑んだ彼は、プレスされた綺麗なシルクのハンカチそのままの、スマートな心臓外科医。地方育ちの私には眩しすぎる人だった。

 雲の上の存在だったはずの彼が、それからも気さくに声をかけてくれるようになり、私の世界は少しずつ彼一色に染まっていった。

 そして迎えたその年のクリスマスの夜。

 静まり返ったナースステーションの裏手で、彼は『君が好きだ』と囁き、私はその言葉をまっすぐに信じた。

『僕が外科医として一人前になったら、結婚しよう』
 そう言われたのは三年ほど前だったか――。


「すまないが、この後病院に戻らなきゃいけなくてね」

 彼は左腕を上げて、腕時計を確認する。

「ああ……はい」
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