ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 なんとか微笑みを作ってみせると、彼はホッとしたように笑みを浮かべ、伝票を持って席を立った。

 去っていく後ろ姿を見つめているうちに、視界がじわじわと滲みはじめ、こぼれないようにと息を殺して耐えた。

 やっぱり本当だったのね……。

 彼がお金持ちの眼科医と見合いをするらしいというのは、看護師同士の噂話で耳にしていたけれど、ただの噂に違いないと笑っていた。

 そして昨日、私は彼が同僚の医師から『見合い上手くいったらしいな』と言われているのを偶然聞いた。

 私はそれでもまだ信じていた。バカみたいに……。


 ふいに、ある声が脳裏をよぎった。

『雪村さん、あの男はあまり信用しないほうがいいですよ』

 少し怒ったような低い声――あれは誰だったか。
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