ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 彼女が患者に付き添って部屋を出た後、俺は説明室のパソコンに向かって電子カルテを更新しながら、すでに次の患者のことを考えていた。だから廊下に出たとき、彼女が怒ったような顔で俺を待ち構えていても、最初はその意味がわからなかった。

『九条先生。先ほどの患者さん。お箸のことをなぜ言えなかったのか、おわかりですか?』

『さあ』とため息を吐き、思わず腕時計に目をやった。次の患者が待っていたからだ。

『お忙しいところ申し訳ありませんが、もう少し、患者さんに寄り添ってあげていただけませんか?』

 彼女はそう言うと、厳しい目で俺を睨み『よろしくお願いします』と頭を下げて踵を返した。

 真面目でおとなしい看護師だと思っていたが、どうやらそれだけではないらしい。

 しかし、いったいなにが不満でそんな態度をとるのか。納得がいかず、今度は俺の方が『待ってください』と呼び止めた。

『なにが言いたいんですか? わかるように説明してください』

 彼女は怯まず、まっすぐに俺を見返した。
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