ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
私たちのような仕事をしていると、つらい別れは現実のものとしてすぐそこにある。
恋人との別れくらいで大騒ぎはできない。
それでも時々、失恋が原因で自分を追い詰めてしまった人や、届かぬ想いに病んでしまう人が病院に運ばれてくるのを私は知っている。
どれほど辛いのかなんて、誰にもわからない。
この悲しみも……。
彼に未練はない。けれどもあったはずのそれなりの自信が粉々に砕け散ってしまようで、しゃんと背筋を伸ばせないような感じだった。
頑張れ私。頑張れ。
自分を慰めるようにそんなことを考えていたある日の夕方、スマートフォンに懐かしさを感じさせる名前が表示された。
【ひなちゃん】
ひなちゃん、こと、山崎陽向。彼女は看護学校時代の後輩で、卒業後は短期間だけれどこの病院に勤務した。
その後転職してもときどき連絡を取り合う仲だ。会えばいつも屈託なく笑って、深結さん、深結さんと慕ってくれる。
普段はメッセージからくるのにどうしたんだろうと思いながら通話に出ると『もしもしー』と、彼女の明るい声が飛び込んできた。
「ひなちゃん?」