ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!

「えっ?」
 驚いた弾みで、グラスを倒してしまった。慌ててグラスを掴んだので床には落ちなかったが。
「ああ……やっちゃった」

 テーブルに水が広がり、ひなちゃんが「おおっ」と声を上げてナプキンを引っ張り出す。

「ごめんね」
「大丈夫ですよ。お水でよかったです」

 ひなちゃんは屈託なく笑うけれど、私はドキドキが止まらなかった。

 ――多分だけれど、九条先生が言っていた看護師は、そうです。この私……。九条先生、もしかして私が思う以上に、私のことを……? と、続けてハッと我に帰った。
 振り回されちゃいけない。
 深く考えちゃいけない。

 九条先生は真面目に看護師の待遇について考えただけで、ただ私の意見を聞いたわけじゃない。私と彼はあくまでも看護師と医師という関係にすぎないのだから。


 翌日、出勤するとすぐに師長から声をかけられた。

「雪村さん、あなた脳卒中看護認定看護師でしたよね」
「はい、そうです」

「せっかくその資格をお持ちなんですから、今日から脳卒中の患者さんを中心に担当してもらえるかしら。もちろん無理のない範囲で構わないから」

 思いがけない申し出に、少し面食らいながらも頷いた。

「ありがとうございます。頑張らせていただきます」
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