ワンコなふりしてドSだなんて、どういうことですか!
 ある時、先生が廊下で患者の家族と話しているのを見かけたが、彼は終始優しい微笑みを絶やさず、相手が理解できる言葉を選んで話しているようだった。
 オペが控えているというのに忙しそうな素振りなど微塵も出さず、相手に寄り添う様子からは、研修医だった頃の面影はどこにもなかった。

 九条先生、本当に変わったのね……。

 そんなことをつらつら考えながら廊下を進む。

 今日の担当は、翌日に手術を控えた患者だ。ナースステーションで電子カルテを確認してから病室へ向かった。

 六十代の男性、脳腫瘍の摘出手術を翌朝に控えている。情報を頭に叩き込んでドアをノックした。

「失礼します」

 バイタルを測りながら声をかけると、返事はあるものの表情が硬く冴えない。私は丁寧に測定値を確認しながら、できるだけゆっくりと言葉を選んで話しかけた。

「気になることがあれば、なんでも言ってくださいね――食欲はどうですか? 食べられました?」

「はい。なんとか」

 患者は小さく頷いたが、表情はほぐれないままだった。
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