トップホストを辞めたイケメンが、いきなり私の専属編集者になるなんて聞いてない!
 ◆◇◆

 新しい日の光が目を刺して、私はそっと目を開けた。

 起き上がると、自分がすっかり裸の状態なのに気づく。

 「…………」

 酒は飲んだけど、全部覚えている。

 横のベッドに目をやると、もう彼はいない。

 私の目は少し寂しげだった。これからもう会えないんだから。

 私は自分の頬をぱんぱんと叩き、スマホを開いた。

 担当編集者からのLINEがある。

 [こんなこと言うのごめんね、花ちゃん。でも来週から私は週刊誌のほうに移るの]

 「え!? ちょっと! 急すぎない?」

 光くんはいないし、担当編集者も他の部署に移る。私の人生は本当に別れだらけだ。

 「まず顔を洗おう」

 私はだぶだぶの服を着て洗面所に向かい、ドアを開けた。

 そして、体を拭いている光くんが立っていた。

 「!!」

 「おや? おはようございます、千代子さん」

 「あ……うん、おはようございます、吉永くん」

 今日から私たちは他人同士だ。

 客でもなく、知り合いでもない。

 遠い他人。

 「はい、予備の歯ブラシです」

 「おお、ありがとうございます」

 他人同士でも、こうやって一緒に歯を磨くと少しドキドキするなあ。

 それでも、私はもっと彼と近づきたい。

 「今日、新しい仕事に行くんでしょ?」

 「はい……なかなか大変な仕事ですけど、頑張ります」

 「そうだね」

 ここを出たら彼を駅まで送る。今日の私はいつも通りラフな格好をしている。

 白い長袖シャツに淡いピンクのロングスカート、猫のイヤリング、まとめた髪、そして眼鏡。

 これが今日の私のスタイル。

 光くん、いや、吉永くんは店にいるときよりずっと自然でかっこよく見えた。

 「この電車で行くの?」

 「はい……」

 あまり話もせず、ほんの少しの沈黙と、女子高生が「ねえねえ、あの人かっこいい」と囁く声だけがあった。

 「?」

 なぜか私は無意識に彼の腕につかまっていた。

 「つり革に届かないんですか?」

 「はい」

 本当は届くけど、ただ彼の腕につかまりたかっただけ。

 {池袋 池袋}

 「じゃあ、失礼しますね」

 「あっ」

 私たちはまた一緒に歩いていた。光くんの職場は私の出版社のすぐ近くらしい。

 「この路地も歩くんですか?」

 「はい、職場がこの辺なので」

 歩き続けても、彼はまだ私から離れていかない。

 そして出版社の前で止まった。

 「あ、ここが僕の職場です」

 うそ……まさか……

 私は彼の顔を見た。

 「あの……ここ、私の出版社なんだけど」

 「え?」

 彼はスマホを取り出して、仕事の詳細をもう一度開いた。

 「僕の仕事は『シークレットメロディ』の有名作家を、由香里編集者の後を継いで担当することなんです」

 由香里さん、私の担当で、移った人。

 「その人、私だよ」

 「え???」

 ということは、私の願いが叶ったってこと?

 私と彼は、これからもずっと近くにいる。
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