ブルーヘヴンの彼方に

   Dreamin’ 思い出して
   埃まみれの夢だとしても
   その先に望んだ未来を描(えが)けばいい

 踊るスポットライトの傍らに設置されたキャノン砲から、無数の銀テープが色とりどりの光を反射しながら宙へ放たれる。

    見上げた空の広大(ひろ)さに気付いたら
    この世界に楽園を見たような気がした
  
 時折、視線を交わす梨歩とエディさん。そのたびに、演奏にも一層熱がこもっていく。
 
    晴れ渡る空に青い薔薇を想う
    理想・現実・夢・幻
    願いは一つ「叶えたい」

 間もなくAサビに差し掛かる。エディさんは華麗に低音から高音へと滑らかな滑奏(グリッサンド)で旋律を繋いでいく。


  ★☆★☆
  
    Believe in 咲き誇る奇跡の花
    どんな困難があろうと
    自分にだけは負けないで
    Blue sky 空に誓うよ
    あなたが今日 踏みしめている大地の温もりは
    今を乗り越えた証
    今日まで生き抜いた証

 オーケストラサウンドにエレキピアノの音が重なる。透明感溢れる旋律を紡ぎ出すシンセサイザーを自在に操るのは、ELLIEことエリサちゃんだ。

    朝日の向こうに広がる景色
    灼熱の太陽に
    ありったけの夢 叫びたい気分だ
    実現不可能でも 恐れずに
    戸惑い捨てて 小さな一歩 
    踏み出してみようよ
   
 Bサビ直前。
 アサトさんは絶妙なタイミングでベースを置き、ヴァイオリンへと持ち替える。そして、伸びやかで華麗な主旋律を奏で、情熱的な音色で空気を震わせていく。
 グランドピアノを思わせる澄んだ音色が夜の薔薇園に響き渡る。低音はエリサちゃんのシンセベースへと引き継がれ、大地を揺さぶるように力強くメロディー全体を支える。
 ドラムは時折(ときおり)静寂を含んだビートを緩やかに刻む。


    Blessin’  I love you
    魂が震える 僕らの旋律奏でよう
    空にとけてく 泡沫のように儚くとも
    Blue time  祝福の時 
    いつか必ず咲くと信じた花は
    どんな花より美しく
    明日(あす)を彩る道標(みちしるべ)に

 青く染まったステージに、白い光が一筋差し込む。光はステージ中央に立つ梨歩を中心に徐々に左右へと広がり、やがてバンド全体を包み込んでいく。

 もう梨歩の顔に緊張はなかった。
 憧れのアーティストを追いかけていた少女ではない。
 今、彼女自身がこの舞台を作る一人の歌い手になっている。

    Amazing! 本当の願い
    気付かないフリ もうやめよう
    大丈夫
    Blue rose  夢は叶うよ
    不可能だって越えてみせる
    信じ続けよう
    夢 叶うまで

 ヴァイオリンが高くうねり、シンセベースの重低音が重なる。激しいドラムが楽曲に鋭い抑揚を刻み、会場の熱を一気に押し上げていく。

    Believe in 咲き誇る奇跡の花
    どんな困難があろうと
    今を生きて 「あなた」を生き抜いて
    Blue heaven 空に誓った
    夢の続きを描(えが)いていこう
    諦めないで
    命ある限り 夢は終わらないから
  
 転調――。
 さらに高く、力強く。梨歩はラストに向けて全身全霊で歌い上げる。
 ひらひらと舞い降りる色とりどりの花弁(はなびら)。ステージに降り積もるカラフルな花は雪のように、舞台面を鮮やかに彩っていく。


「素敵な演出ね」
 春奈おばさんが口を開く。
「うん」
 持つべきものは、頼れる上司。特別に譲り受けたフラワーシャワー。まさかこんな形で使える日が来るなんて。
 ここは、まるですべての人の夢を叶える場所のよう。今、この瞬間に私自身の夢も同時に叶ったような――そんな気さえした。
 



    Blessin’  I love you
    魂が震える 僕らの旋律奏でたら
    空にとけてく 泡沫のように儚くとも
    Blue heaven 幸福(しあわせ)だね
    必ず咲くと信じたあなたは
    他の誰より美しく
       

「梨歩……」
 無限の色彩を帯びた旋律。それはきっと、確かな明日へと続く、希望に満ちた歓(よろこ)びの歌。
 私の視界が、涙で滲む。

   Hummin’ いつか
   あなただけのPrecious dream

   ずっと 描(えが)いて 
   心のままに  Shinin’

 溢れ出す数々の思い。でも、もう涙には頼らない。
 私は頬を伝う最後の一滴(ひとしずく)を拭うと、意を決してステージ上手(かみて)側へと向かった。

   Ah――

 終幕を彩る鮮やかなスポットライトの下で、梨歩はEDENの演奏をバックにマイクを介し、まるで言霊(ことだま)を放つように溌剌とした声で言った。
「みんな、今日は最後まであたしの歌を見届けてくれて本当にありがとう! 今までで一番、最高に幸せなライブだった。あたし、またこうしてみんなの前で歌えるように……。いつか、いつか今よりもっとパワーアップレベルアップして、プロの歌手としてステージに立てるように……あたし、絶対元気になって帰ってくるから。その時はまた是非、あたしのステージ観に来てね!」
 ありがとう! と、梨歩は生声(なまごえ)で叫んだ。

 鳴り止まない喝采。
 終始笑顔と涙に包まれた観客席。
 電子音を放ったエレキハープの音色。リバーブを利かせた心地よいサウンドは、次第に本来の繊細で神秘的な音色に変わる。
 そして、最後の旋律――
 幻想的な青いスポットライトが梨歩を包む。
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