ブルーヘヴンの彼方に

「若……葉?」
「梨歩……」
 私はステージ上に立った。
 白い光が、ステージ全体を照らす。
 どよめく観客席。
 私は手に持ったブーケを梨歩に渡す。
「ステージデビュー、おめでとう」
「……!」
 いつか出逢った、青灰色の花弁が印象的な品種〝ブルーへヴン〟

 青薔薇(ブルーローズ)に願いを込めて。

「若葉……あたし……」
 私はマイク越しに梨歩に言った。

「青い薔薇の花言葉覚えてる?」

「……うん」

「まず一つ目は?」
「『奇跡』」

「二つ目は?」
「『神の祝福』」

「じゃあ、三つ目は……私たちから言うね」

 突如、照明が落とされ、ステージは再び、暗闇に包まれる。

「え、何?」
「停電?」
 どよめく観客。

 静寂の合間を縫って、エディさんが私の右隣に立った。僅かな視界の中、彼と私は息を合わせ、呪文を唱えるように声を放った。

「夢、かなう」

 青と白のスポットライト。閃光弾のような眩(まばゆ)さが、今一度ステージ周辺をきらびやかに染め上げる。
 

「若、葉……っ」
 ブーケが梨歩の手に渡った次の瞬間、梨歩が私に抱きついた。
 その温もりが、全身へ流れ込んでくる。

「梨歩……っ」
 いつか、梨歩が自らの足でステージに立つ日が来たら、この世で最高の、祝福の花を贈るから。

 いつかの約束。やっと果たせた。この瞬間、私の夢も叶ったんだ。

「あ……!」
「どうしたの? 梨歩」
「今、涼ちゃんが」
「涼平さん?」

 姿形は見えなくても、それはきっと夢でも幻でもない。涼平さんは、梨歩のステージを観に来たんだ。

「うん。来てくれてたんだなと思って」
「きっと観てるわよ。今も」

 時空を超えた涼平さんの思いは、充分すぎるくらい梨歩に伝わっているのが私にもわかる。

「そうだね」

 梨歩は涼平さんの忘れ形見となったエンゲージリングを見つめる。
 スポットライトの光を浴びたダイヤモンド。小さいながらも、一貫して洗練された輝きを放ち、梨歩をより一層引き立たせる不思議な存在感。
 まだあどけなさが残る梨歩のはにかむような笑みですら、“大人の女性”を感じさせる。

「涼ちゃん……」

 喝采が手拍子となって、ステージから楽器の音色が幾重にも響き始めた。

「それでは、桜ヶ丘梨歩……アンコール、歌います!」

 続いての曲は、と梨歩は高らかにマイクを天に掲げる。

――梨歩。
      君がいて  僕がいて
      世界が次第に色づいて

 これからもずっと、歌い続けて。

      幸せな時を刻む日も
      終わり告げる鐘が響く日も
     (La La La……)
 エディさんのハミングが、梨歩の伸びやかな歌声に重なる。

      すべて君と僕がいた
      愛しい記憶
      永遠(とわ)より永(なが)い 宇宙(そら)の彼方に

 すべての人の心に届く、あなたの歌声を。

      いつまでも どこまでも

 どうか、どうか……

      届け  響け

 永遠(とわ)に続く、祝福の旋律(メロディー)に乗せて。

      Over the world 
  〈Fin〉



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