愛だけは、裏切らなかった
 愛って暴力だと思う。
 通り魔的に殴られて、その痛みが忘れられなくなるから。


「若葉さん、俺と付き合って」

 昼休みの教室で、まるでご飯に誘うかのように軽やかに告白された。名前は分からない。
 
 目立つその行動に、ちょっと派手めのギャルたちがこちらを見ていた。

「ごめんなさい。彼氏がいるので」

 そう断れば、声を上げて笑われた。

「みんなにそう言って断ってるけど、本当は居ないって有名だよ?」

「それじゃあ、騙されないって!」

「……」

 そんなに信用されていないのか。
 ギャルたちが「またやってるよ」と声を上げた。

「若葉の言う彼氏って虚言だから~」なんて広めてくれた元凶だ。

 彼氏の写真をみせろだとか紹介しろと言われたけど、断ったせいなのか、いつの間にかグループからハブられていた。

「騙すとかじゃないよ」

 そう言い残し、面倒事から逃げるように教室から飛び出した。目的もなく足早に進んでいく。

「本当に嫌だ」

 なんでこの学校の男女って、すぐ告白するの?
 告白の価値が軽すぎる。

 偏差値が低いこともあって素行の悪い人間が多い。そして、チャラい。

「若葉ちゃ~ん、今度遊ぼうよ」

 廊下を歩くだけで、名前を知らない男子が声をかけてくる。

 階段の踊り場に設置された姿見に、私の全身が映り込む。
 私はワンエイスで、日本人の血が濃い。それでも、少し目立つ顔立ちらしい。

 綺麗な顔だと褒められ、この学校では「可愛いからとりあえず付き合おうぜ」というノリで告白される。
 もう日課になっていた。

 ちょっと容姿が良くても、中身は根暗なので、うっとうしくて仕方がない。

 ノリに付き合うような性格でもない。

 家から近くて、校則もゆるい学校だからってこんなところに来るんじゃなかった。
 ため息をつきながら階段を降りていると、異変に気付いた。何やら騒がしい。

「こんにちは!」

 男子たちの大きな声が聞こえてくる。
 ――すぐに正体は分かった。

 この学校で一番目立つ、三年生のグループが階段を上って来ていたのだ。
 後輩である男子たちは道を開け、挨拶をしていたという訳だ。私も周囲に倣って端に移動する。

 ……いつ見てもガラが悪い。

 男女合わせて七人ほどのグループで、真ん中を歩いているのがカリスマ扱いされている・円宮(えんぐう)雷(らい)だ。

 涼しい目元の美形だけど、野性味のある雰囲気があって、その圧倒的なオーラが人気。
 ……そうクラスの男子が話していた。

 こういう怖いグループとは目を合わせないほうがいい。
 俯きながら通り過ぎるのを待つ。

「あっ、一年の若葉ちゃんじゃん」と、道端先輩が声をかけてきた。耳に大量のピアスをつけているのが痛々しい。

「今日も可愛いねー!」

 私を見つけるといつもそうだけど、どうして馴れ馴れしいのかは理解しかねる。

「……こんにちは」

「俺と付き合う気になってくれた?」

「いいえ。……彼氏がいるので」

「その嘘、バレてるんだからねー」

 また信用されていない。
 下手に楯突くと、この人よりも周りの人たちが怖い。
 妙に人気があるのだ、このグループは。

「今度遊ぼうね」

「……」

 黙り込んでいたら、道端先輩は飽きた様子で階段を上っていく。良かった、何も起きなくて。
 そう思って胸をなで下ろしていると、鋭い視線を感じた。

 視線をたどると、円宮 雷がこちらを見ていた。
 思わず息を呑む。何も言われていないのに言葉を奪われる感覚だった。

「雷? どうした?」

 道端先輩が声をかける。

「別に」と言って、あの人はいなくなった。

 体から一気に力が抜けていく。
 そこに残された「怖かった」「かっこいい」なんていう周りの声が耳障りだった。


 
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