没落ラブプラン
薄めのリップを唇に重ね、履き慣れた靴に足を通す。

少し小走りで駅へと向かった。

電車に揺られること十五分。

「痛っ」

誰かに踵を踏まれた。

こういうときのおじさんたちは容赦がない。

一人でうんうんと頷きながら、踏まれた踵をさする。

銀行員として働き始めて、今年で五年目。

満員電車にも、こうした小さな災難にも、すっかり慣れてしまった。

都会で暮らす以上、スマホの覗き見防止フィルムは欠かせない。

そういえば、ミナさんから返事は来ているだろうか。

スマホを取り出すと、ちょうど通知が届いていた。

〈明日ですか。仕事がありますので、19時頃でしたら構いません。銀座駅付近のカフェでお話でもしましょうか〉

銀座か。ちょうど行きやすい。

〈それで大丈夫です〉

送信、と。

職場に着くと、二つ年下の後輩、村本千佳がニヤニヤしながら待ち構えていた。

「雫さん、タナカさんどうだったんです?」

「将来性はめっちゃ良くて、いい人なんだけど、肯定マンすぎて……。なんでも『いいですね』しか言わなくて。あれは私が駄目になる」

「雫さん。いい人なんだったら、もう付き合うべきですよ。マイナス要素が少ない人物なんて貴重なんですから」

千佳は呆れたように息を漏らした。

「まあ……そうね。でも、もう明日会う約束あるから」

「もう? 雫さんの行動力には目を見張るものがあります。で、どんな人ですか?」

「えーっと……顔はめちゃくちゃタイプ」

「ほかには?」

「……以上」

千佳の眉間にしわが寄った。

将来の夢。

あの欄については、伏せておくことにした。
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