元カレの弟(19)と同居することになりました
02:元カレに瓜二つ
あれは数日前のことだった。
「本間さんちの息子さんをうちで預かる予定なんだ」
パパがそう言ったとき、私は理解できずに怪訝な顔をした。ここでいう本間さんとは、陽太の父親のことだ。牛田家と本間家は、昔から父親同士の仲がよい。
「何言ってるのパパ。息子さんって……」
陽太はイギリスでロックバンドをやっているんだよ。そう伝えると、パパは笑って言った。
「違うよ。下の子、光太くんの話だよ。会ったことないっけ?」
ああ、そういえば……。私は以前に聞いた話を思い出した。たしか、陽太には年の離れた弟がいるって言ってたっけ。
「光太くん、今は十九歳で、大学生なんだって。ほら、本間さんの奥さんは海外に行ってるでしょ? 知らない? まあとにかく、今度は本間さんも海外に行かなくちゃいけないみたいで。息子さんが一人になるから、うちで預かることになったんだ」
十九歳の弟……。陽太とはずいぶんと年齢が離れているな。私たちが高校生だったころ、光太くんは未就学児じゃないか。私が光太くんに一度も会ったことがない理由は、彼の年齢だったようだ。
「でも、預かるって……。もう大学生だったら、一人暮らしもできるんじゃないの?」
「それがね。ずっと箱入りで育ててきたから、生活能力に自信がないんだって。パパも光太くんは小っちゃいころから知ってるし、うちは大学から近いしで。だから、パパも本間さんも光太くんも、みんなオッケーってことになったんだ」
箱入りで。生活能力がなくて。その言葉は私に刺さった。生まれて以来、一度も実家を離れたことのない私の生活能力も同じようなものだ。一人暮らしをすればいいだなんて、生意気なことを言ってしまったと反省した。
「そっか、わかったよ」
「美弥子も弟ができたと思って、仲よくしてやってくれ」
パパは笑顔でそう言い、この話はおしまいになった。
しかし、仲よくと言われても……。私は人づきあいがそこまで多くない。相手がちびっこならまだしも、今回は男子大学生だ。いまどきの若い子って、どんな感じなんだ? 家の中でショート動画のダンスを撮影したりするんだろうか。よく知らないけど、若い子はみんなやってるんでしょう? 嫌なことをいろいろと想像したら、口の中が酸っぱくなってきてしまった。
しかし、それは杞憂に終わる。光太くんは彼の父親が運転するハイエースで連れてこられた。車から降りてきた光太くんの姿を見たとき、私はすぐに打ち解けられると確信した。
――陽太だ。
すぐにそう思った。心の中に、ぶわっと春風が吹き込んだ。光太くんの姿は、高校時代の陽太に瓜二つだったのだ。
男性と話すのが得意でない私にとっても、陽太だけは特別だった。幼いころからの付き合いがあり、心を許せる相手である陽太。交際を申し込まれた時も、それが陽太だったから素直に応じることができたのだ。
光太くんは私の姿を認めると、やや緊張したように会釈した。
「あの、どうも」
声も似ていた。陽太との甘い思い出が脳裏に蘇る。思わず、ごくり、と唾を飲み込んだ。そしてなるべく優しい声で返した。
「うん。えっと……光太くん。これからよろしくね」
そして微笑みを投げかけると、光太くんはゆっくりとはにかんだ。
「本間さんちの息子さんをうちで預かる予定なんだ」
パパがそう言ったとき、私は理解できずに怪訝な顔をした。ここでいう本間さんとは、陽太の父親のことだ。牛田家と本間家は、昔から父親同士の仲がよい。
「何言ってるのパパ。息子さんって……」
陽太はイギリスでロックバンドをやっているんだよ。そう伝えると、パパは笑って言った。
「違うよ。下の子、光太くんの話だよ。会ったことないっけ?」
ああ、そういえば……。私は以前に聞いた話を思い出した。たしか、陽太には年の離れた弟がいるって言ってたっけ。
「光太くん、今は十九歳で、大学生なんだって。ほら、本間さんの奥さんは海外に行ってるでしょ? 知らない? まあとにかく、今度は本間さんも海外に行かなくちゃいけないみたいで。息子さんが一人になるから、うちで預かることになったんだ」
十九歳の弟……。陽太とはずいぶんと年齢が離れているな。私たちが高校生だったころ、光太くんは未就学児じゃないか。私が光太くんに一度も会ったことがない理由は、彼の年齢だったようだ。
「でも、預かるって……。もう大学生だったら、一人暮らしもできるんじゃないの?」
「それがね。ずっと箱入りで育ててきたから、生活能力に自信がないんだって。パパも光太くんは小っちゃいころから知ってるし、うちは大学から近いしで。だから、パパも本間さんも光太くんも、みんなオッケーってことになったんだ」
箱入りで。生活能力がなくて。その言葉は私に刺さった。生まれて以来、一度も実家を離れたことのない私の生活能力も同じようなものだ。一人暮らしをすればいいだなんて、生意気なことを言ってしまったと反省した。
「そっか、わかったよ」
「美弥子も弟ができたと思って、仲よくしてやってくれ」
パパは笑顔でそう言い、この話はおしまいになった。
しかし、仲よくと言われても……。私は人づきあいがそこまで多くない。相手がちびっこならまだしも、今回は男子大学生だ。いまどきの若い子って、どんな感じなんだ? 家の中でショート動画のダンスを撮影したりするんだろうか。よく知らないけど、若い子はみんなやってるんでしょう? 嫌なことをいろいろと想像したら、口の中が酸っぱくなってきてしまった。
しかし、それは杞憂に終わる。光太くんは彼の父親が運転するハイエースで連れてこられた。車から降りてきた光太くんの姿を見たとき、私はすぐに打ち解けられると確信した。
――陽太だ。
すぐにそう思った。心の中に、ぶわっと春風が吹き込んだ。光太くんの姿は、高校時代の陽太に瓜二つだったのだ。
男性と話すのが得意でない私にとっても、陽太だけは特別だった。幼いころからの付き合いがあり、心を許せる相手である陽太。交際を申し込まれた時も、それが陽太だったから素直に応じることができたのだ。
光太くんは私の姿を認めると、やや緊張したように会釈した。
「あの、どうも」
声も似ていた。陽太との甘い思い出が脳裏に蘇る。思わず、ごくり、と唾を飲み込んだ。そしてなるべく優しい声で返した。
「うん。えっと……光太くん。これからよろしくね」
そして微笑みを投げかけると、光太くんはゆっくりとはにかんだ。