元カレの弟(19)と同居することになりました
03:牛田家のリビング
ここでまた、仕事を終えて帰宅した時点に戻る。
私はママが作ってくれたトマト煮込みを口に運びながら、ちらちらとリビングに視線を送った。ソファに座った光太くんが、スマホで動画を見ている。やはり、その姿は在りし日の陽太にしか見えない。そして、光太くんはまるで居候とは思えないほど自然に過ごしていた。
トマトソースのとろみが舌の上を滑る。その旨味を堪能しながら、目では光太くんの姿をたっぷりと味わった。何度でも言おう、彼は陽太にそっくりだ。
「ごちそうさま」
食事を終えて挨拶をすると、ママがニコニコしながらあっという間にお皿を片付けた。これはいつものことだ。食事の用意から片付けに至るまで、家事という家事はママが全力で取り組む。そこに夫や娘の入る余地はなかった。
夕食を終えたところで、私の目はらんらんと輝いた。光太くんと、話をしたい。昨日は引っ越してきたばかりでバタバタしていて、あまり会話をすることができなかった。ところが立ち上がるや否や、ママに呼び止められてしまった。
「ねえ美弥子。パパが帰ってくる前に、お風呂済ましちゃってくれる?」
「はーい」
私は素直に返事をしつつ、じれた足取りで自室へと向かった。着替えの準備をしてから洗面所に行き、丸まってしまうことも気にせずに着ていた服をぽいぽいと脱ぎ捨てて洗濯機へ入れた。
解放的な姿で風呂場に入ると、大きな鏡に映った自分の姿が見えた。立体的な贅肉が腹にぶら下がって段を形作っている。高校生の頃はこうじゃなかった。お尻は昔から大きくて陽太に褒められていたものの、腹に段なんぞは無かったはずだ。私は奥歯を食いしばり、鏡に映し出された自らの現実にシャワーをぶちまけた。
お風呂ですっかり体を清めた私はパジャマに身を包み、ドライヤーを手にしてリビングに戻った。ソファでは未だに光太くんがスマホを見ていた。今はゲームに興じているようだ。ダイニングテーブルの方を見ると、いつの間にか帰宅していたパパが夕食を取っていた。
「おかえりパパ」
「おう美弥子。今日の会社はどうだった?」
昔から、私にその日の出来事を尋ねるのがパパの日課だ。
「別に普通。定例会があったよ」
「嫌な先輩とか上司とかいない?」
「うん。平気」
「そうかそうか」
私に何も問題がないと確認ができたパパは、満足そうな顔を浮かべてから食事に戻った。まったく、心配性なんだから。
私はリビングの隅にあるコンセントにドライヤーをつないでスイッチをオンにした。髪に温風を当ててわしゃわしゃしながら光太くんを観察する。ソファで悠然とくつろぐ彼の姿は、この家の弟だと言われれば信じてしまってもおかしくないだろう。
私はもう待ちきれず、部屋の隅から光太くんに話しかけた。
「何見てるの?」
ところがドライヤーの轟音に声をかき消され、光太くんはぴくりとも動かない。仕方なく諦めてドライヤーに専念することにしたが、その間も光太くんからは目を離すことはなかった。陽太にそっくりな彼を見ていると、自分まで高校時代に戻ったような気がしてくる。あの頃は本当によかった。
そんなことを考えていたら、光太くんはスマホを持つ手を下ろし、ゆっくりとソファから立ち上がった。
「じゃあ、僕、もう部屋に行きますね」
「はあい。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
私は、親とそんな会話を交わす光太くんのことをぼんやりと見ていた。ところが慌ててドライヤーを止めて声を上げた。
「待った待った!」
すると、光太くんはきょとんとした顔をこちらに向けた。私はドライヤーをくいっと動かしてソファを指し、こう言った。
「ドライヤー終わるまで待っててよ」
「え、はい……」
光太くんは戸惑いつつも素直に腰を下ろし、またスマホの画面に視線を落とした。両親は嬉しそうにそのやり取りを眺めていた。
「もう美弥子ったら」
「あっはは。なんだかすっかり姉と弟って感じだな」
姉と弟。パパが二人のことを表現した言葉はなんとなくしっくり来た。ただ、うまく説明できないけど、ちょっと違うような気もする。
それからしばらく髪を乾かしていた。しかし待ちきれず、乾ききる前に中断することにした。私はドライヤーをコンセントから抜いて床に置き、ソファに座る光太くんの横にストンと腰を下ろした。
私はママが作ってくれたトマト煮込みを口に運びながら、ちらちらとリビングに視線を送った。ソファに座った光太くんが、スマホで動画を見ている。やはり、その姿は在りし日の陽太にしか見えない。そして、光太くんはまるで居候とは思えないほど自然に過ごしていた。
トマトソースのとろみが舌の上を滑る。その旨味を堪能しながら、目では光太くんの姿をたっぷりと味わった。何度でも言おう、彼は陽太にそっくりだ。
「ごちそうさま」
食事を終えて挨拶をすると、ママがニコニコしながらあっという間にお皿を片付けた。これはいつものことだ。食事の用意から片付けに至るまで、家事という家事はママが全力で取り組む。そこに夫や娘の入る余地はなかった。
夕食を終えたところで、私の目はらんらんと輝いた。光太くんと、話をしたい。昨日は引っ越してきたばかりでバタバタしていて、あまり会話をすることができなかった。ところが立ち上がるや否や、ママに呼び止められてしまった。
「ねえ美弥子。パパが帰ってくる前に、お風呂済ましちゃってくれる?」
「はーい」
私は素直に返事をしつつ、じれた足取りで自室へと向かった。着替えの準備をしてから洗面所に行き、丸まってしまうことも気にせずに着ていた服をぽいぽいと脱ぎ捨てて洗濯機へ入れた。
解放的な姿で風呂場に入ると、大きな鏡に映った自分の姿が見えた。立体的な贅肉が腹にぶら下がって段を形作っている。高校生の頃はこうじゃなかった。お尻は昔から大きくて陽太に褒められていたものの、腹に段なんぞは無かったはずだ。私は奥歯を食いしばり、鏡に映し出された自らの現実にシャワーをぶちまけた。
お風呂ですっかり体を清めた私はパジャマに身を包み、ドライヤーを手にしてリビングに戻った。ソファでは未だに光太くんがスマホを見ていた。今はゲームに興じているようだ。ダイニングテーブルの方を見ると、いつの間にか帰宅していたパパが夕食を取っていた。
「おかえりパパ」
「おう美弥子。今日の会社はどうだった?」
昔から、私にその日の出来事を尋ねるのがパパの日課だ。
「別に普通。定例会があったよ」
「嫌な先輩とか上司とかいない?」
「うん。平気」
「そうかそうか」
私に何も問題がないと確認ができたパパは、満足そうな顔を浮かべてから食事に戻った。まったく、心配性なんだから。
私はリビングの隅にあるコンセントにドライヤーをつないでスイッチをオンにした。髪に温風を当ててわしゃわしゃしながら光太くんを観察する。ソファで悠然とくつろぐ彼の姿は、この家の弟だと言われれば信じてしまってもおかしくないだろう。
私はもう待ちきれず、部屋の隅から光太くんに話しかけた。
「何見てるの?」
ところがドライヤーの轟音に声をかき消され、光太くんはぴくりとも動かない。仕方なく諦めてドライヤーに専念することにしたが、その間も光太くんからは目を離すことはなかった。陽太にそっくりな彼を見ていると、自分まで高校時代に戻ったような気がしてくる。あの頃は本当によかった。
そんなことを考えていたら、光太くんはスマホを持つ手を下ろし、ゆっくりとソファから立ち上がった。
「じゃあ、僕、もう部屋に行きますね」
「はあい。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
私は、親とそんな会話を交わす光太くんのことをぼんやりと見ていた。ところが慌ててドライヤーを止めて声を上げた。
「待った待った!」
すると、光太くんはきょとんとした顔をこちらに向けた。私はドライヤーをくいっと動かしてソファを指し、こう言った。
「ドライヤー終わるまで待っててよ」
「え、はい……」
光太くんは戸惑いつつも素直に腰を下ろし、またスマホの画面に視線を落とした。両親は嬉しそうにそのやり取りを眺めていた。
「もう美弥子ったら」
「あっはは。なんだかすっかり姉と弟って感じだな」
姉と弟。パパが二人のことを表現した言葉はなんとなくしっくり来た。ただ、うまく説明できないけど、ちょっと違うような気もする。
それからしばらく髪を乾かしていた。しかし待ちきれず、乾ききる前に中断することにした。私はドライヤーをコンセントから抜いて床に置き、ソファに座る光太くんの横にストンと腰を下ろした。