新宿駅に掲示板
それからというもの、彼女の仕事帰りの約束事は、少しだけ色鮮やかなものに変わった。
二日後、その黒板の隅には、また別の優しい詩が書かれていた。
さらに数日後には、また新しいフレーズが。詩をつなげるように、完成されていく歌詞のように。
(やっぱり、どこかのアマチュアミュージシャンなんだわ)
確信めいたおかしさを感じながら、誰も読まないその小さな言葉の更新を密かに楽しみにすることが、灰色の日常を送る美幸の、たった一つの心の拠り所になっていった。
そんなある日のことだった。会社で大きなミスをして、上司から激しい叱責を受けた美幸は、頭が痛くなるほど泣きたい気持ちのまま、新宿駅の雑踏を歩いていた。
いつもの黒い伝言板の前に立ったとき、そこには彼の新しい詩が並んでいた。
いつもなら心を温めてくれるはずのその言葉が、その日に限っては、今の自分の惨めさと対比されて、なぜか少しだけ恨めしく思えてしまったのだ。
気がつくと、美幸は備え付けの白いチョークを手に取っていた。
後にも先にも、あの大学時代の悪ふざけ以来のこと。
彼の詩のすぐ下『数ある星の僕たちが、すれ違ったことは、小さな幸せだから』に、殴り書きのような小さな文字で、自分の後ろ向きな感情をそのまま書き連ねてしまう。
『そんなの幸せでも、優しさでもない。もがくだけ、無駄だと思う』
美幸は、自身のつなげた詩に目を通し、どこか寂しい審判を自分に下したような気がした。
二日後、その黒板の隅には、また別の優しい詩が書かれていた。
さらに数日後には、また新しいフレーズが。詩をつなげるように、完成されていく歌詞のように。
(やっぱり、どこかのアマチュアミュージシャンなんだわ)
確信めいたおかしさを感じながら、誰も読まないその小さな言葉の更新を密かに楽しみにすることが、灰色の日常を送る美幸の、たった一つの心の拠り所になっていった。
そんなある日のことだった。会社で大きなミスをして、上司から激しい叱責を受けた美幸は、頭が痛くなるほど泣きたい気持ちのまま、新宿駅の雑踏を歩いていた。
いつもの黒い伝言板の前に立ったとき、そこには彼の新しい詩が並んでいた。
いつもなら心を温めてくれるはずのその言葉が、その日に限っては、今の自分の惨めさと対比されて、なぜか少しだけ恨めしく思えてしまったのだ。
気がつくと、美幸は備え付けの白いチョークを手に取っていた。
後にも先にも、あの大学時代の悪ふざけ以来のこと。
彼の詩のすぐ下『数ある星の僕たちが、すれ違ったことは、小さな幸せだから』に、殴り書きのような小さな文字で、自分の後ろ向きな感情をそのまま書き連ねてしまう。
『そんなの幸せでも、優しさでもない。もがくだけ、無駄だと思う』
美幸は、自身のつなげた詩に目を通し、どこか寂しい審判を自分に下したような気がした。