新宿駅に掲示板
確信に震えながら彼の姿を見つめたとき、美幸の目に、決定的な証拠が飛び込んできた。
深く冷え込む夜だというのに、ギターを爪弾く彼の不器用な指先は、白く汚れている。
それは、毎晩のように駅の黒板に命を吹き込んでいた、チョークの粉だった。
よく見れば、厚手の上着の腰あたりにも、無造作にその指先を拭ったような白い跡がいくつも残っている。
その時、彼は自分の歌をじっと聴いてくれる唯一の観客である美幸に向けて、はにかむような感謝の微笑みを浮かべた。
けれど、次の瞬間だった。彼は弾いていた手を止め、二度見するように美幸の顔を凝視したまま、呆然と歌うことをやめてしまった。
静まり返ったビルの合間に、冷たい夜風だけが吹き抜ける。
彼が歌を忘れてしまうほどに驚いたのは、深く被ったニット帽の影から見つめた彼女の瞳から、大粒の涙がとめどなく溢れ、その白い頬を静かに伝い落ちていたからだった。
顔も、名前も知らないまま、けれど誰よりも深く心を通わせていた二人の世界が、新宿の片隅で、ついに静かに重なり合った。
『時代は音も立てず進んでいく、僕たちはもがきながらも生きていく。小さな幸せと、素敵な出会いを求めて』
終わり。
深く冷え込む夜だというのに、ギターを爪弾く彼の不器用な指先は、白く汚れている。
それは、毎晩のように駅の黒板に命を吹き込んでいた、チョークの粉だった。
よく見れば、厚手の上着の腰あたりにも、無造作にその指先を拭ったような白い跡がいくつも残っている。
その時、彼は自分の歌をじっと聴いてくれる唯一の観客である美幸に向けて、はにかむような感謝の微笑みを浮かべた。
けれど、次の瞬間だった。彼は弾いていた手を止め、二度見するように美幸の顔を凝視したまま、呆然と歌うことをやめてしまった。
静まり返ったビルの合間に、冷たい夜風だけが吹き抜ける。
彼が歌を忘れてしまうほどに驚いたのは、深く被ったニット帽の影から見つめた彼女の瞳から、大粒の涙がとめどなく溢れ、その白い頬を静かに伝い落ちていたからだった。
顔も、名前も知らないまま、けれど誰よりも深く心を通わせていた二人の世界が、新宿の片隅で、ついに静かに重なり合った。
『時代は音も立てず進んでいく、僕たちはもがきながらも生きていく。小さな幸せと、素敵な出会いを求めて』
終わり。


