新宿駅に掲示板
『励ます言葉を君に送ってから、僕の心はそれ以上に励まされていた。伝言板の片隅。ほんの些細な言葉が、僕たちを繋ぎ止めている』

 美幸は、おのずと足を止めていた。

 なにかが胸の奥で奇妙にざわめく。

 まるで、自分とあの伝言板の『彼』との間にしか存在しないはずの秘密が、いま目の前の見知らぬ青年によって歌われているかのような――そんな不思議な錯覚に、美幸は激しく翻弄され始めていた。

 きらびやかなクリスマスの喧騒の裏で、行き交う人々は彼の歌に目もくれず、ただ冷淡に通り過ぎていく。

 誰も足を止めない空間の中、たった一人、彼の前に呆然と立ち尽くす美幸の存在を、通行人たちはどこか奇異なものを見るように一瞥していくだけだった。

 しかし、今の美幸にはそんな冷たい視線すら届いていなかった。

 アコースティックギターの音色に載せて紡がれる彼の歌詞に、驚きを隠すことができなかったからだ。

 歌のあちこちに、あの黒い伝言板に二人が書き綴ってきた言葉が、宝石のようにいくつも散りばめられている。

 その内容は、姿の知らない彼女に送る、ラブソングが込められていた。

(……この人、ひょっとして)
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