『世界の終わりのトップコート』〜嘘つきな君と、私〜

再会と優しい嘘

「……ハルト、本当に、ハルトなのね」

大理石のデスクに両手を突いた私の指先は、自分でも驚くほどに白く強張っていた。
そうでもしていなければ、膝の震えが床に伝わり、そのまま崩れ落ちてしまいそうだったからだ。

私の頭の中を激しくかき乱している狼狽など露知らず、ハルトは「いやあ、驚いたな。まさかこんなお洒落な街で再会できるなんてさ」
と、少し照れくさそうに頭を掻いた。

そして、私の促しも待たずに、工房の片隅に置かれたアンティークの丸椅子へと歩み寄る。

少し背中を丸め、上着の裾を無造作に巻き込むようにして座るそのぶかっとして見える座り方は、十四歳の頃の彼と何一つ変わっていなかった。

顔つきはすっかり大人の男性のそれになっているというのに、笑ったときに目尻に寄る細かなシワや、どこか少年っぽさを残した屈託のない笑顔は、私の記憶にあるハルトそのものだった。

けれど、彼が身体を動かすたびに、デニムジャケットの繊維の隙間からふわりと広がってくる、あの弾けるようなシトラスの香気。

それが、私の鼻腔を容赦なく、冷酷に満たしていく。

調香師として訓練を重ねてきた私の嗅覚は、その香りがただの洗剤や柑橘類のフレグランスなどではないことを、あまりにも正確に弾き出してしまっていた。

ライムの鋭い酸味の奥にある、皮膚が熱を失っていくときのような、乾いた、けれどじっとりとした特異な分子構造。

それは彼に残された時間がもう長くないことを、冷厳な科学的プロトコルとして私に突きつけてくる、死の宣告に他ならなかった。
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