【長編】ホタルの住む森

「今思い出しても、おかしいよね~暁。」

ケラケラ思い出し笑いをしながら思い出の枝垂桜を見上げる。

「ひでえよな。子どもなりに一生懸命知識を磨いて、頑張って披露しているのにさ、褒めるどころか落ち込ませる親がどこにいるんだよ。」

相変わらず根に持っている暁が自分より少し背の低い父に冷たい目で蹴りをいれる。…が、紙一重のところでかわされた。

ちっ、と舌打ちする暁。

「暁があんまり可愛かったからさあ、思わず笑っちゃったんだよ」

悪びれず、ニッコリ笑う父を晃は苦虫を潰したような顔で睨みつけた。

「でも、もうちゃんと分かっただろ?」

晃が、まだクスクスと笑いながら言うのを、チラッと見た暁は、あったりめ~だと心で毒づきながら、フンと吐き捨てるように言った。


「あぁ、わかってるよ、すだれ桜だろ?」



……晃、沈黙…。



……あれ?

今、ちゃんと枝垂桜って言ったよな、俺?



この後、晃が呼吸困難になるほど笑い崩れたのは言うまでもなく…

言い間違いだと真っ赤な顔をして叫ぶ暁を見て、更に笑いこける父親に、憤死するほど怒ったとか、怒らなかったとか…。


枝垂桜の枝が優しく揺れて、足元の二人を見下ろしている。

クスクスとやさしく枝を揺らして笑うように淡い花びらが降る。

二人に語りかけるように…

二人を包み込むように…


++ しだれ桜 Fin ++



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