【長編】ホタルの住む森
「…父さん、彼女は誰だと思う?」
晃はベッドに横たわる陽歌を見つめ、記憶を探った。
「僕の名前を知っていたって事は、逢ったことがあるんだろうなぁ。
記憶に無いんだけど…昔診た患者さんかな?」
「…それは無いだろ? 『晃先生』ならまだしも『晃』って呼び捨てにしてたぜ?」
「…そうだね。女性に『晃』なんて呼ばれたのは随分久しぶりだよ。
…一瞬だけど、茜が還ってきたのかと本気で思った。
…どうしてだろうね。彼女と茜は全然似ていないのに」
雨足は一層強くなった。