【長編】ホタルの住む森

晃は窓から庭を見下ろし茜の愛した花々が、強雨の痛みに耐える姿に眉を顰めた。

天が号泣し大地を洗い流す中、紫陽花だけがこの世で唯一の色であるかのように鮮やかに色を増している。

空は世界を灰色に覆うような雨雲で埋め尽くされ、遠くで雷鳴が轟き始めた。

どんな風景の中にも、晃は愛しい影を求めている。

紫陽花に幼い茜と出逢った日を思い、雷鳴の中に契りを交わした神殿の夢を見る。

どれだけ時を重ねても、決して色褪せることの無い想いが蘇り、晃の心を揺さ振り続けるのだ。


ただいま……晃…


陽歌の声が茜に重なり甘く響いた。

晃は思い出の中の愛しい影を抱きしめる。

亡き母の残した紫陽花を愛しげに見守る父を、暁は切ない気持ちで見つめた。


< 260 / 441 >

この作品をシェア

pagetop