【長編】ホタルの住む森

雨の神殿


晃は住宅街の外れにある、ヨーロッパの貴族の屋敷をそのまま移したような、大きな洋館の前にいた。

茜と蒼が生まれ育った『光林家』は、今は『沖崎家』となり蒼と結婚した右京が娘の杏と三人で住んでいる。

午後からの雷雨の為、今日はいつもより闇の訪れが早く、夕刻にも関わらず部屋には温かな照明が灯されていた。

古いものだがかなりしっかりした建物で、二人の曽祖父に当たる人物がヨーロッパから日本に移住した際に建てた物だそうだ。

詳しいことは解らないが、なんでも二人の先祖に当たる人物は数百年前に滅した小国の王家の出らしい。一度だけ写真で見た茜の父親は銀の髪にアメジストのような紫の瞳をしていた。

茜の両親は彼女の病を治す唯一の方法を知っていて、それを手に入れようとして死んだのだと、いつか茜が言っていたことがある。

薬の効かない彼女の病が、かつて王家にかけられた呪いによるものだと信じていたらしい。

晃は呪いなど信じていないが、茜が治る魔術があるというのなら、やはり藁にも縋る思いで信じたかもしれない。


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