【長編】ホタルの住む森
6月の海は夜風が冷たく、踏みしめる砂はひんやりと火照った体を冷やしてくれる。
空には小さな星が遠慮がちに瞬き、細い三日月が海辺を照らす様はどこか物悲しかった。
拓巳と二人砂を踏みしめ、ゆっくりと砂浜の温度を足でじかに感じながら歩く。
夕食の時に飲んだお酒で火照った体を冷やしてくると伯母に告げ、拓巳は陽歌を散歩に誘った。
伯母に気を使ってくれたのだろうと陽歌は拓巳に感謝した。
海の香りのする夜風を吸い込み心を落ち着けると、先ほどの伯母の顔が頭を過ぎった。
「陽歌、大丈夫か?」
「あ、うん…ちょっと伯母さんの事考えていただけ」
「そっか……手紙、読んでみるか?」
ずっと握り締めていた手紙を見つめる。
この中に茜が陽歌に託したことが書いてあるのだと思うと、緊張に手が震えた。