奴のとなり
「あの女のこと、桜ちゃん知らないんだろ?」
微妙な空気を切ったのは皐月だった。
いつもの女口調ではない。
その話し方に、一樹桃矢の眉がぴくりと動く。
七海は煙草を吹かすだけで、視線だけを寄越した。
「あんたには関係ない」
「まぁ、やぁねぇ。・・・、それが関係なくないかもよ?」
「・・・・・・」
膝を組み替えて、皐月は手を顎に乗せる。
「美香は嫉妬深い上に一途だから厄介だよ〜。まぁ放っておいた桃矢くんが悪いけどね」
「・・・・・・」
「桜ちゃん、素直だし、真っ直ぐだから苦しむよ〜」
「・・・・・・黙れ」
「はははっ、言いたいことは言ったし、俺は黙るとするよ。優しく明るい皐月に戻るとしますか」