奴のとなり
先生は、
「ほぉ、一樹が病気の体をおしてまで来るとはなぁ」
と感慨深そうに、
顎に蓄えた髭を手で撫でながら、
とてもマイペースに歩いてきてくれた。
話では、
影松先生は奴の担任らしい。
保健室に到着すると、
奴は先生を見るなり眉間の皺を深くし、むっとした。
「よりによってハゲ松かよ」
ぼそっと呟かれたそれは、
先生のあだ名のようで、
恐る恐る先生を見ると、
微かに光る頭を撫でながら、
「まだ禿きっておらんよ」
と笑った。
先生の様子を見てほっとしたあたしは、
奴の体温を説明する。
先生は棚から解熱剤を取り出すと、
奴に水と一緒に渡して、
帰れないようなら寝てから帰りなさい
と保健室を去っていった。