林檎と、キスと。


わたしと向かい合うように腰を下ろした彼は、

「食える分だけでいいからな」

そう言うと、そっと手を伸ばした。

彼のその手の行き先は、わたしの左頬。


「くっついてる」

テーブルに頬をつけていたせいで、下敷きになっていた髪の毛が頬に張りついていたのだ。


彼の指先がわたしの髪をつまむ。

「あ、ごめん。あ、ありがとっ。ゴホゴホッ…。い、いただきますっ」

髪の毛を手で撫でつけながら、マーブル模様の柄のついたフォークをりんごに突き刺した。


彼の姿を眺めていたことがバレてしまったんじゃないかと、心臓がドキドキと動きを速める。

慌ててりんごを頬張ったわたしを、しばらく不思議そうな顔で眺めていた彼が、フッとやわらかな表情を見せたあと、

「しっかし…。母親に見捨てられるわ、見舞いに来る彼氏はいないわ…。ほんとおまえって、寂しいヤツ」

頬杖をついて言った。

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