我妻教育
感涙する未礼をなだめようと背中をさすってやる。


「ネックレス、私がつけておいてなんだが、またはずれても困る。外しておくのだ。
留め具の修理と、あと洗浄にだそう。
…髪の毛に蜘蛛の巣がからまっているぞ。一体どんなところまで探していたのだ…」


思わず頓狂だったと反省した。

こういう場合、もっと気のきいたことを言うか、
ひとしきり泣かせてやるのが正しい対応だったのかもしれない。

だが、友人たちの前で、気恥ずかしさに襲われ、何か話さずにはいられなかった。



「えーっ!!クモ?やだもぉ、ホントに?!」

未礼は、髪の毛をはたきながら笑った。

汚れた手でも気にせず涙を拭いながら、上機嫌な笑い声をあげた。




連絡を受けた九地梨とジャンも合流した。


電灯がともった薄暗く人気の少ない公園において、全員の表情は真昼のように明るい。



疲れなど、吹き飛ぶような、興奮と爽快感だ。

木立をざわめかせる風が、汗ばんだ身体を冷やす感覚が心地よかった。

自然と口角が上がる。



「それにしても、皆、ひどい格好だ」


公園での捜索作業で、全員すっかり泥だらけになっていた。

おのおの顔を見合わせ、笑っている。


琴湖の自慢の黒髪に、葉っぱが絡まっていた。
ジャンの白いフリルシャツと靴下も、真っ黒になっている。

私の姿も、同じようなものだが。



「やったナ♪ケーシロー」

ジャンが私の肩に手を置きウインクした。


「ほんとうに。見つかって良かったですわ」


「ああ。二人には本当に世話になった。恩に着る。ありがとう」


「あら、殊勝ですこと」

琴湖が、いつもの気高い表情で笑った。

ジャンが再びウインクした。
相変わらず暑苦しい男だ。


だが、本当に、世話になった。



全員に対してしきりに礼を言ってまわる未礼の嬉しそうな笑顔。

はじめて、心からの笑顔が見れたのかもしれない、と思った。










余談だが、次の日行われた小テストで、私と琴湖とジャンの3人は、そろって点数を下げた。


顔をつき合わせ、返却された答案を見比べ、苦笑いした。

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