我妻教育
第四章

1.後継者の絶体

ほんの一月前のことだ。


未礼との見合いのあと、松園寺家の現当主である父が私に言った。

この私を、自分の後継者とする、と。

その旨を、3ヶ月後の正月に、一族の前で宣言するつもりである、と。


やっと私の地位が確定する。


待ち望んだ結果に、喜んだ矢先の、

いとこの優留(スグル)の宣戦布告。


今、この時期にわざわざ我が家に訪れたということは、“正月の後継者宣言”を見越してのことのはず。


私が後継者に確定する前に、優留は私を倒しに現れたのだろう。

私を抑え、自らが後継者となり、この家を支配するために。

だが、後継者認定・宣言の話は、まだ私しか知らないはずなのだが…。



あきらかに寝不足だったが、気が高ぶり、眠気など感じなかった。
学校に来ても、授業など耳に入らない。

無意識に爪を噛んでいた。
自分が、いらだっていることに気づいた。



「ずいぶんと余裕のないお顔をされていますこと。
いよいよ、松園寺家のお家騒動勃発、といったところかしら?」


昼休み。

雲はいまだ分厚いままだが、雨は止んでいる。

校舎の屋上で一人たたずむ私のところへ、琴湖が現れて出し抜けに言った。


「相変わらず耳が早いな」

私は皮肉気味に返したが、琴湖も負けてはいない。

「あら、松園寺家の覇権争いの話なら、耳をふさいでいても、聞こえてきてよ」

「・・・だろうな」


「後夜祭で未礼さんをエスコートしたのが、話題のきっかけになったことは確かですわ」

「未礼との関係はもとより隠すつもりはない。だから後夜祭に参加しなければ良かったなどとは思わん」


「ええ。ですが、水面下での動きは活発になったようですわ」


私と琴湖の間に緊迫した空気が流れた。

松園寺一族すべてが、私や私の父の味方ばかりではない。
反乱分子は、いて当然であろう。

父にメールを送って探りを入れたが、返信はまだない。


優留は、政権争いに勝つための有力な“何か”を得て、満をじして行動に出たと考えて間違いなかろう。

とにかく、わからないままだ。
優留が、一体何を得、どう動いてくるつもりなのか。


優留は、反乱分子の筆頭だ。
< 128 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop