我妻教育
「それじゃ、行ってくるわね。体に気をつけて」

母が私を抱きしめて言う。


「期待しているぞ」

父は私の頭をくしゃっとしながら言う。


「はい。行ってらっしゃいませ、父上、母上」

我が家の…私と両親の出がけのあいさつはこれだけだ。

しばしの別れを惜しむように多くを語り合ったりすることはなく、いつも実にあっさりとしている。



《お任せください、父上。…》


搭乗口へ向かう両親の背中を見据えながら、自らの意志で強く声には出さずに誓う。


「期待している」そう言われると心臓が掴まれたような感じがして引き締まり、
背筋が伸びる。


どんなことでも私は父の期待に応える。

誰より私が後継者にふさわしい、そう思い続けてもらえるように。


すべての期待に応える。
心血を注いで。





「―…正式に、」

一つ大きく深呼吸し、声に出して言ってみた。
「後継者…」



早朝、
私の心は澄んだ秋晴れの空高く、高く、
浮き上がっていくようだった。



―だがすぐに
思い知ることになる。
未礼という女をあなどっていたことを。

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