我妻教育
「私の母が、未礼さんのことを案じておりましたの。
松園寺家にとっては赤の他人ですから、未礼さんの存在をこころよく思わない人間だっているでしょう。
お嫁に行くということは、少なからず疎外感を味わうものだと言いますし。
といっても未婚の私には、まだそのあたりのことは、よくわかりかねますので、母の受け売りで申し訳ないですが…」


「・・・」


「啓さまは、すすんでお話をされる方じゃありませんから。
未礼さんは、何も分からないまま、心細い思いをされているんじゃないかと思いまして」


私は、琴湖の話を大人しく聞くよりほかになかった。



私は、物事に集中すると、それ以外が億劫になる性質のようだ。

未礼は、どうも気をつかいすぎるところがある。

私は、そこに甘えて、今は構う余裕がないから、ほっておこうなどと…。


教育するためとはいえ、自ら責任を持って、婚約前にもかかわらず未礼をうちで預かったのだ。

私は、また義務を怠るところだった…。



「・・・確かに、その通りだ…」

私は、うなだれ、微苦笑した。


何も聞いてこない、イコール、気になっていない、というわけではないはずだ。


我が家で、未礼が頼れるのは私だけ。

もっと心を尽くして未礼を大事にしなくてはならない。



「・・・最近、琴湖には叱られてばかりだな。面目ない」


「あらいやだ。叱るだなんて。
私は女の立場で物事を考えてるだけ。男の啓さまとは意見が違っても仕方のないことですわ」

「琴湖の意見は、ためになる」

「あら、光栄です」

琴湖は、ニコリと笑った。


「女性を守るのは殿方のつとめです。しっかりなさって下さいね」

「ああ、ありがとう」


「私たちは、啓さまの味方ですから」

「私たち…?」


琴湖は、屋上の出入口にちらりと目をやった。


「ちょっと、ちょっとォ〜、2人とも!!いないから探してたら、ボクだけノケ者にして、いったい何のサプライズの相談だい?!」

ジャンが頬をふくらまし、手を振りまわしながら走ってきた。


「別にのけ者になどしておらぬ。教室に戻ろう。午後の授業がはじまる」


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