我妻教育
私の婚約者として、後継者争いは、未礼の人生にかかわってくる。

垣津端家も、松園寺家の後継者の嫁にするために未礼を我が家に預けたのだ。



「あたしにも何か、手伝えることがあるといいんだけど…」

未礼は、言葉を選ぶように慎重に言った。

私は、うなずく。


「毎年新年には、一族が我が家に集まるのが慣例だ。
私の婚約者として、そなたを披露することは必至。心積もりを頼む」


「はい」

未礼は、神妙に、はっきりと同意した。



“正月に親族に婚約を発表する”ことの“同意”。

ひとまず父との約束を果たせたとはいえ、私の胸中は複雑なままであったが、
私の志は、今も昔も、これからも一つ。


私は、まっすぐ未礼の目を見て言った。


「案ずるな。私は必ず後継者となる」


未礼の前で、誓ったのは、初めてだった。



未礼は、静かにゆっくり微笑んだ。






休日の午前中。


祖父に会うため、私は一人、別邸に車を走らせた。


車窓から広がるのは、山と田園風景。
色づいた紅葉が見ごろで美しい。
養生にはもってこいの穏やかな土地だ。



別邸に着くと、門の前に車が一台とまっているのが目に入った。

電気が走るように、気が張りつめる。

あの車は…。



「啓志郎、よく来ましたね」

邸宅に入ると、祖母に迎えられた。
祖母は、いつも着物を着ていて、温雅なお方である。

私は頭を下げた。

「おじいさまのお加減はいかがですか?」

祖母は、ゆったりと微笑む。

「ええ。調子は、よろしいわ。
今日は、優留も来てくれてるから、おじいさまもさぞお喜びのことでしょうね」

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