我妻教育
「エムビーエー?」

ジャンが首をかしげた。
正座が限界だったのだろう、しびれた足を伸ばして、さすっている。

私は、仕入れた情報を琴湖とジャンに伝えた。

「企業経営のスペシャリスト、と言ったところだ。
三男坊は、亀集院グループ関連企業ではなく、外資系の大手コンサルタント会社に勤めている。将来有望なビジネスマンだ」

「何歳なんだい?」

「27歳だ」


「あら。じゃあ優留さんよりも一回り年上、というわけですね」


「けどさ、何で三男を選んだんだろう?」

不思議そうにジャンが言う。



亀集院家当主には、子息だけでも6人いる。

たいそう女性好きらしく、現在の妻は4人目だという。

(ちなみに、長男次男が一人目の妻との子で、三男が二人目の妻、四男五男が三人目、六男が現在の妻との子だ。
女の子どもを加えると、計10人の子沢山だ)


長男(39歳)は、独身だが国政に出ており、将来は首相とも言われるような人物で、優留の婿養子にはむいていない。

亀集院家の家業を継ぐ予定の次男(35歳)は、既婚者なので除外。

四男(22歳大学生)は、音楽の世界を志し、現在ライブ活動中。

五男(16歳高校生)は、非常に内向的で、人の上に立つには向いていない。
六男は、まだ小学生である。



優留が、“後継者”の地位を早く獲得するなら、三男との婚約が一番の“即戦力”になる。


だからこそ、三男でなければよいのに…と思っていたのだ。


私たちは、3人同時にため息をついた。



「そうこうしてる間にも、見合いの日はドンドン近づいてくるんだよなァ…。
どうにかして、婚約破棄にできないものかな…」


ジャンは、うなりながら天井を仰いだ。
お手上げのようだ。



すると、琴湖が、言い出しにくそうに遠慮がちに言った。

「優留さんの婚約を食い止められないなら…、
優留さんじゃないですけれど、啓さまも、おじいさまに、お頼みになったら?
悪い言い方ですが、婚約者を未礼さんではなく、もっと…」


「琴湖!!」

ジャンが慌てて琴湖の台詞をさえぎる。



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