我妻教育

2.後継者の絶命

「亀集院家の三男ですか・・・。あの家は子息が多いようですが、よりにもよって、三男ですか…」


竹林に囲まれた静寂な離れの茶室。

琴湖が、茶をたてている。

ときおり、ししおどしが響いて実に風流だ。



「ジャン、正座が辛いなら足をくずしていいのよ」

琴湖が、茶と菓子を差し出した。


「ほんと?!・・・っでも、正座が茶室のマナーなんだろ?!ボク、頑張るよ!!」

ジャンは茶碗を受けとると、ぐるぐると回転させた。

「まわしすぎよ」

「何回まわすものなんだい?というか、なぜ、まわすんだい?」

「茶碗の正面を避けるためよ。客(ジャン)に茶碗の正面が向いているから。
客は、正面を避けるように右回りで茶碗を2回まわして向きを変えて、正面をはずすの」

「なぜ正面から飲まないんだい?せっかく正面を向けて置いてくれてるっていうのに」

「茶碗の正面を避けることで、お茶を入れた亭主(私)に敬意を示すことになるの。
飲み終わったら、正面に戻すため、さっきとは逆に2回まわして戻すってわけ」

「ジャパニーズカルチャーは奥が深いなぁ~」


茶道に興味津々のジャンに、琴湖が作法を教えている。

横で、私もお茶をいただく。


「結構なお点前で」

「おそまつさまでございました。
うれしいですわ。啓さまがお茶を召し上がりたいだなんて、久しぶりですもの」

琴湖は、嬉しそうに微笑んだ。



久しぶりに、琴湖の茶が飲みたくなったのだ。



放課後、私とジャンは、琴湖の家に邪魔をした。


茶を楽しむのなら、やはり琴湖だ。

竹小路家は、華道の家元だが、茶道も一流である。

我が家にも本格的な茶室はあるが、竹小路家に招かれ、師範並の腕前のある琴湖が入れるとさらに格別である。


ゆったりと茶を楽しむと、心が落ちつく。


目の端で、慣れない正座に、もだえ苦しむジャンの姿が邪魔だったが、気がちるというほどではない。


一息ついたところで、琴湖は、話を振り出しに戻した。


「噂に聞くところによると、相当優秀な方らしいですわね。亀集院家の三男は。
確か、経営コンサルタントでしたっけ。東大卒で、さらに米国でMBAを取得したとか」
< 144 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop