我妻教育
ケーキを切り分ける。


学校から帰る途中にある、ケーキ屋で購入したのだ。



琴湖が言っていたように、どこかのホテルにでも依頼し、高級なバースデーケーキを用意することもできなくはなかった。


だが、私はそうしなかった。



「すまない。プレゼントもまだ用意できていないのだ」


「いーよ、いーよぉ、気にしないで。あ、イチゴ多くもらってい?」


「ああ」

私に切り分けられたケーキの上にのっているイチゴも未礼の皿にのせてやる。

未礼は、口いっぱいにケーキをほおばった。

イチゴはよけてある。
最後にまとめて食べる気のようだ。



「後日また改めて用意させてもらう」

「いいよ、いいよ」

「いや、誕生日をきちんと祝ってやらないわけには…」


「?今祝ってくれてるじゃん」

未礼は、きょとんとして笑った。


「啓志郎くんって、ホントまじめだよね。
松園寺家の御曹司ともあろう人が。急だって、何か用意できなくもなかったんでしょ?」


図星だったため、思わず口をつぐんだ。



ケーキもプレゼントにしても、金で買えるものなら、どんなに急だとしても手に入れられないものはないだろう。


にもかかわらず、私はこうして頭を下げた。


なぜか。

どうも違う気がした。

うまく説明するのも難しいのだが、違う気がしたのだ。


権力でもって、一般的に女性が喜びそうな高価で稀少なものを急遽用意し、失態をカバーできるほど、私自身がまだ“値”しない。

権力やら、人の力を使って喜ばすのは、間に合わせるのは、私にはまだ、“違う”気がしたのだ。


果たして、未礼が本当に喜ぶものは…。

短時間では思いつかず、結局ケーキだけを購入し、家路に着いたのだった。



「そのマジメなところが啓志郎くんの良いところなんだよね」


未礼は、イチゴをつぎつぎと口に放り込み、実に幸せそうな顔で堪能した。



「あー、おいしかったぁ。幸せ。いい誕生日だったなぁ」


ケーキを食べ終えると、未礼は大きく背伸びをした。


「啓志郎くんの誕生日は4月だよね☆また一緒に祝おうね!!」

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