我妻教育
未礼の言葉に、私は、うなずいた。



必ずやってくる日の、繰り返されていくだろう口約束。

一緒に過ごすことが、こんなにも自然な成り行きだった気になってしまう場所。



見渡すかぎりのだだっ広い敷地に、無駄に大きな我が屋敷。

隔離されたようなこの小空間。
狭い和室、真ん中にテーブル。


質素で小さく、なんと平和な場所だろう。


そう、ここが今の私の“居場所”なのだ。


ここが私の原点であり、さらなる高みを目指してゆく出発点となるのだ。













私は、考えていた。


12月に入り、未礼が居間に小さな卓上のクリスマスツリーを飾った。


お菓子入りのアドベントカレンダーも飾ってある。
毎日開くのを楽しみにしているようだ。



そうだ。
クリスマスだ。


私はクリスチャンではないが、ちゃんとプレゼントを用意してやらなくては。


学校でも、未礼に渡すプレゼントはどうするのか、考えをめぐらせていた。




夕方。

未礼は居間で、宿題でもしているのか、シャープペンをくわえ、ぼんやりとノートと向き合っていた。

相変わらず、あぐらで姿勢は悪いが、ふすまを閉めるクセはついてくれたようだ。
居間をむやみに散らかすこともない(隣の自室にはあえて触れないが)。


私は、合気道の稽古に行くため用意をし、未礼に「行ってくる」と言ったところで、携帯電話が鳴った。


祖父からだ。


珍しい。

何のご用だろうか。

私は緊張しつつ、電話に出た。


私の緊張をさっし、未礼も固唾をのんで私を見守っている。



「啓志郎、頼みがある」


祖父の声は、緊迫感などはなく、どちらかと言えば、やや呆れ気味だった。


話の内容に私は驚愕した。

…いや、ア然とした。



「啓志郎、優留を止めてくれんか?」




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