我妻教育
優留が馬鹿にしたのは、祖父だけでなく、さらにそんな大人たちに振り回される自分たちをも含めているように見えた。



ちなみに中学生当時の我が父は、今とは比べものにならないほど女性に奥手だったため、引き合わせられても、まともに目すら合わせることができなかったのだという。


「全部、うちの親父情報だ」

優留は、勢いをつけてブランコからピョンと飛び降りた。

優留の父…我が父の弟。


「親父曰く、“あれが兄貴の初恋だったんじゃないか”ってさ」



我が父の初恋の相手が、未礼の母親だったとは…。

唖然とはしたものの、さほど驚きはしなかった。


祖父が設定した見合いに、父も大賛成だった。

未礼に対する執着に、やっと合点がいった、という気持ちが強かった。






池に近寄ると、白い鯉がいつも、すいっと近づいてくる。


「カノン。
父は、お前をとても大切にしている。
今でもなお、未礼のお母上に未練があるということなのだろうか…?」


未礼の母親はもう亡くなっている。

“初恋”というものは、どのような意味を持ち、今の父を形成しているのだろう。


…聞くべきではなかったかもしれぬ。

知って気分の良いものではなかった。


私から見て、父と母は仲良くやっている。

それ以上のことを知りたいとは思わなかったし、私ごときが深く詮索するようなことでもない。



一つ、確かなことは、未礼が、私の婚約者に選ばれ、そして受けた。

それだけで良いのだから。




…居間に帰ろう。


未礼が待っている。






< 212 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop