我妻教育

4.夫婦の決心

「啓さまって、センスないんですわね」



休日の午前。

私は、琴湖の家の茶室で、琴湖に生け花を習っていた。
(休日の午前は、未礼はまだ眠っている)


華道の家元の娘である琴湖は、私の手元の仕上がりつつある花の作品を眺め、困った顔をした。
いや、半笑いを堪えているようにも見える。


「センスがないからこそ、教えをこうているのではないか」

花の前で決まりが悪くなり、首をすぼめて顔を上げるのをためらう。


私は、芸術的なセンスに乏しい。

学校の美術の授業程度ならなんとかなっても、それ以上のセンスを求められるとまだ対応しがたい。

芸術鑑賞は嗜むし、頭の中では完璧な完成図が出来上がっているのだが、手元の実物に反映するかは別問題らしい。



どうも全体的な、まとまり感に欠ける…気がする。
生け花、あなどりがたし。
私は、自らの作品の前で首をかしげた。

琴湖も、どうしたものかと、あごに手をやり思案している。



「ちょっとバランスがおかしくないかい??もっとフラワーの高さをそろえたほうが…」

私の花をのぞきこみ、ジャンがよこやりをいれた。


「黙れ。わかっている。余計なお世話だ」


ツンとそっぽをむいた私の目の端に、可笑しそうに声を殺して笑うジャンがうつる。

そのジャンの手前にある、バラをつかった作品を琴湖は感心したふうに見回した。


「あら、ジャンは素敵じゃないの。才能あるわよ」


「そうかい?!キラキラでゴージャスでエレガント。イメージは、氷上のプリンス☆そう、このボクさ☆」

ジャンはバチッとウインクをし、親指で自らを指した。

白と青のバラをメインにレースフラワーをふんだんに盛り込んだ、豪勢な作品だ。

素人の私が見ても、美しいできばえに見えた。


「このブルーのローズは、プリンスの哀愁をあらわしているんだ!」

芸術は、恥じらいのない人間にむいているのかもしれぬ。
ジャンは熱心に自分の作品の解説をしている。


「テーマがしっかりしているのは良いことよ」
うなずく琴湖。


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