我妻教育
私は自分の作品の手直しをしながら、横から口を出した。

「ジャンの作品は、生け花というよりはフラワーアレンジメントと分類すべきなのではないか?」


「竹小路流とは一線を画してるけど、これはこれでいいんじゃないかしら。ジャンはうちの生徒ではないですし」


ジャンはなおもレースフラワーを追加し、作品の豪華さを増した。そして琴湖を見上げた。

「生け花とフラワーアレンジメントってなにが違うんだい?」


「そうね。
ともに花をアレンジメントする技術において差はあまりないといっていいと思うわ。
厳密にいうと、華道(生け花)は、省略の美。
茶道などと同様に、日本人のわびさびの心を表現しているの。
色鮮やかな花だけじゃなくて、木や枝、葉や苔などすべてを花材として、その姿の美しさ、いのちの尊さを表現し観賞する日本の伝統芸術よ。
フラワーアレンジメントが追及するのは装飾性。一本だけでも美しい花をたくさん集めてより美しくする手法。つまり花束をつくること。
どちらにしても、表現したいものをありのままに表現することが一番大事よ。
プレゼントにするなら相手に伝えたい想いだとか」


琴湖の説明に、ジャンは満足げに聴き入っている。


私は腕くみをし、自分の作品とにらめっこしていた。







午後に、未礼とともに自宅の庭掃除をした。

枯れ葉を集めていたとき、使用人から呼び出された。

私あてに電話がかかっている、と。


母からだった。


−−用件は、私に対する、再度の“意志確認”。



電話を終え、未礼の待つ庭に戻る。


未礼は、まだ芽の出ないチューリップの植木鉢をのぞきこんでいた。

伏し目になっている長いまつげが静かにまたたく。

土をつんつんとさしながら、芽が出るのを待ちわびている姿を、私は、何を考えるわけでもなく、ただぼんやりと眺めた。


未礼は、私の気配に気づくと、顔をあげ微笑む。

「電話、お母さんからだったの?」

何気ない感じで聞いてきた。
きっと深い意味もなく。


「ああ」

得に隠す必要はない。
私も何気ない感じで話した。


「この前から、母に、提案されていたことがあるのだ」
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