我妻教育
「確かにそうだね。
啓志郎くんが結婚できる18歳のときは、未礼は24歳で、大卒で結婚するとしたら22歳と28歳か。
24~28あたりって、ちょうど女の子の結婚適齢期だもんね。
その年まで自分の好きなことしてても、そろそろ結婚しなきゃ、って思い出す年齢になる頃、労せずセレブで年下男の嫁におさまれる。
女の子にとってこれ以上おいしい話なんてないんじゃないのかな」

「あ~、ほんとだねぇ」

未礼がまるで他人事のように、相づちをうっている。


「でもよ…」桧周が、逆立てた赤毛に触れながら、やや小難しい顔で首を九地梨のほうに傾け、小声でたずねる。

「28まで、男も作れねーで待ってろって酷じゃねェか?」

「そんなことないよ。結婚自体は28まで待つにしても、“男”はそんなに待たなくて大丈夫でしょ。
待ってせいぜい3年ってとこじゃないの?
啓志郎くんも、高校生にもなれば十分男として立派に未礼をエスコートできるようになってるだろうし」

「あ~、そうだよな。なら、いい話じゃん」


「子どもの前!」

男二人の会話に、釈屋久の低い声と、にらみをきかせた鋭い視線が飛んだ。

調子に乗った我が父が、母に諌められている姿と似ているように思えた。

男二人は、悪さの見つかった子どものように身をすくめて、顔を見合わせ苦笑いした。

「ま、まぁ〜でもよ」
急に桧周が、私に向かって居直ると、わざとらしく口調を弾ませて言った。

「未礼にとっちゃおいしくてもよぉ、坊ちゃんにしてみりゃぜってー損じゃん。
今は一応、未礼も若いけどよ、えーと…、坊ちゃんが24で、未礼は三十路だぜ?
ババァじゃん。そんなのヤに決まってんじゃん、なぁ?」


その茶化すような言い方に、私の反論に険がこもった。

「歳の差か…。それが一体何だというのだ。
何より未礼さんを侮辱するような物言いをするな!不愉快だ。
第一、貴さ…おぬしには関係のないことだろう」

短い沈黙が走った。

桧周は、ぽかんとした顔で、その三白眼をしばたたかせている。

「−確かに、ババァは言い過ぎだよ」

九地梨は、今のは怒らせても仕方ない、とつけ足し、とりなすような笑顔をつくってみせた。


「…まぁ、確かに言い過ぎだったかもな、悪いな」
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