我妻教育
桧周は意外にも素直に詫びた。

生れつき険相だという顔つきのせいか、不服そうに見えなくもないが。


「あたしは別に平気だよ。
だってあたしも啓志郎くんに同じこと聞いたもん。あたしおばさんだけどいいの?って。
でも啓志郎くんってほんと優しいよね。ありがとう」

未礼が少し照れたようにはにかむ。

「いえ、礼を言われるようなことはしておりません」

陽の温もりがたまる窓際の一角が、ほんのりゆるい空気で満たされる。

そういえば、我が祖父から、未礼の性質は、おおらかだと聞かされていた。

確かにその通りかもしれない。


昨日とはまるで違う見た目に戸惑うものの、その柔らかい雰囲気が、昨日の見合い相手と同一人物であると確信させてくれるのだ。


「で、坊ちゃんは結局何しに来たんだ?」

桧周が思い出したかのように私に問う。

私は、未礼に向かって言った。

「私たちは、初対面同士です。
お互いやお互いの家のこともよく知らないままでは、今後の付き合いの上で何かと不都合もございましょう。
ですから、これから少しずつ親睦を深められればと思い参上したしだいです」

私の台詞を神妙に聴き入っていた未礼は、

「そっかぁ、そうだよね。昨日はバタバタしてたからゆっくりお話できなかったもんね。
それで来てくれたんだね、うれしいな」

薄い唇を横に引き伸ばして、くったくなく表情を和らげている。

私の瞳をのぞきこむ、未礼のややタレ目の大きな瞳が、あどけなさを強調していて、今日の身なりとはアンバランスで仕方なかった。

「婚約者同士の関係が良好にこしたことないもんね。家同士のためにも」

納得したように九地梨がうなずく。


この友人どもは…、自分たちのことは気にしないで、と言っておったくせに、遠慮なしに口を挟んできてくれるものだから、親交を深めに来たというのに未礼とゆっくり会話もできやしない。

正直今日はこれ以上の進展は見込めそうにない、と思っていた。

「家同士かぁ、未礼んとこの会社、これから松葉グループと密な付き合いするよ〜になんだな。
んで数年後にゃ、リアルカレーなる一族に仲間入りか。うらやましいぜ」

桧周の言葉反応して、未礼が、「カレー」と、つぶやく。

すると、
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