我妻教育

3.夫婦の不和

いやがおうでも朝はくる。


6時半。

ふすまの前に立ち、息を吸う。

「未礼!朝だ!」


朝は忙しい。
私は毎朝、弓を引き、精神統一をする。
そして鯉に餌をやる。


だが、今朝からは、日課を一時中断せざるをえない。

未礼を起こして朝食をとらせ、始業に間に合うように送りとどける。
私に課せられた優先事項だ。


昨夜、剣道の稽古をしたあと、今朝やる分の弓を引いておいた。


鯉に餌をやると、私は、未礼の眠る部屋の前へ行った。


昨日は、未礼を起こすのに30分以上はかかった。

よって、今朝は起きる時間の30分前から、起こしにかかることにしたのだ。


何度か外から声をかけた。

起きる気配はない。

「入るぞ!」と宣言してから、ふすまを開けて中に入った。


未礼は、みの虫のように、掛け布団を身体に巻きつけて、ぐっすりと眠り込んでいた。


畳に投げ出された、携帯電話が振動している。

アラームか?

昨日と同じく、バイブが切れては振動し、切れて振動、を繰り返していた。

気づかないなら、意味がないではないか。
なぜ音を鳴らさないのだ。

鳴っていたからといって、すんなりと起きはしないだろうが。
目覚ましで起きてくれたらどんなに楽なことだろう。

私は無駄に響くスヌーズを解除しようと、未礼の携帯電話に手を伸ばした。

ストラップの白いぬいぐるみが薄汚れている。


携帯電話を開くと、数字の羅列が目に飛びこんできた。


着信だった。


名前を登録していないようだ。


「未礼、電話だ」
布団の上から未礼の肩を揺さぶる。

「…うー〜…」
かすかに呻いたものの、未礼は、またすぐ寝入る。

同時に着信も止んでしまった。

しかし、バイブの振動でまたすぐに着信が入ったのがわかった。

同じ番号からだ。

朝っぱらから、急ぎだろうか。


しかたなしに、私はその電話に出た。

「はい、垣津端未礼の携帯電話だが…」
まだ本人は寝ている。
そう私が言う前に、電話は切れた。

無言のまま、相手側が切ったのだ。

一体何だ。

私は眉をひそめ、携帯電話を閉じた。



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