我妻教育
未礼は、寝ぼけまなこでテーブルの前にあぐらをかいて座っている。

今朝は、私が言う前に、未礼自ら布団をたたんでいた。

根は、素直な性格のだろう。



「時間がない。
ぼーっとしていないで早く食べてしまうんだ」

「…ぁーい」


我が家の朝は、和食だ。


未礼は箸を持ち、鯖の塩焼きをつついた。

しかしそれ以上魚には手をつけようとせず、みそ汁をすすりながら、箸で卵焼きを突き刺した。


「魚が苦手だったか?」

「…ううん。ていうか、うん?骨取るのが」

「…骨ぐらい面倒がらずに取れるようでなくてどうする」

「もっと簡単に食べられたらいいのになぁ〜…。
あ、みそ汁いい味♪」


私は未礼の食膳から、魚ののった皿を取り、骨をはずし始めて、思い出した。

魚に目を落としたまま、話しかけた。

「ああ、そうだ。携帯がなっていたぞ」

私の言葉に、飯をかきこむ未礼の箸の音がとまった。

「繰り返し、かかってきたから急ぎかと思って出たが、すぐに切れてしまった。
登録されていない番号だったが…」

「…あ、そうなの?」

言い出しの声に、ふるえを感じた。

顔を上げたら、なにごとも感じられないいつもの笑顔だった。

気のせいだったか。

「なんだろう、誰からだろうねぇ〜。
あ、ご飯お代わりもらってい?」
「ああ」

機嫌良く飯をよそっている。

未礼に皿を渡した。

「う、わぁー、キレー!上手いね啓志郎くん!」

未礼は、手渡した皿にのった魚の身と骨を交互にほれぼれと眺めた。

「早く食べるんだ。ゆっくりしている暇などないぞ」

「は〜い」



ちゃんと朝食をとらせてやれたことに、私はひとまず安堵していた。


だが、
その時、もっと追求すべきだったのだ。

その着信の正体を。






「珍しいですわね」

始業前。
腰に手をあて小首をかしげた琴湖が、私の席の前に立って言う。

「何がだ?」

私は、手元の本をめくりながら聞き返した。


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