我妻教育
「けーいしろーう!!」


廊下から、走ってくる足音と私を呼ぶ声が聞こえた。


保健室で休んでいた私の前に、戸が勢いよく開けられた。

琴湖とジャンだ。

「たたたたたタイヘンだよ、啓志郎ォォォ〜!!」

二人とも息を切らし、ただごとではない様子でベッドに駆け寄ってきた。

私は起き上がった。
「…なにごとだ、騒がしい」


「なにごと、じゃありませんわ」

息を整えながら琴湖は言い、不愉快な顔で視線を廊下側に向けた。


そこへ、二人の男子高校生が入ってきた。

赤い髪の大男と、黒髪眼鏡の優等生。

未礼の学友の桧周と九地梨だ。


そうそうに桧周が口をきいた。

「オイ、今日未礼来てねェんだけどどうした?
ケータイも出ねェしよ…」


「…な…」

未礼が来ていない?

「何を言っているのだ、未礼はお前のところに…」


私の驚きを察し、男子高校生二人の顔にも緊張が走った。


「うちには来てねぇよ。
学校来てねぇから、ケータイにかけても電源切れてるしよ。
未礼のことだから、充電忘れてるだけかもしんねーけど、俺らになんも言わねぇで休むなんておかしいからさ」


ならば、未礼はどこへ行ったというのだ。



私は簡単に今回の、いきさつを説明した。

昨夜は少々やり合ってしまい、未礼とはそのままであるということを。



「置き手紙を見ただけか?
未礼本人にちゃんと確認したのか?」

いらだちをおさえつつ桧周が聞いてきた。

「…していない」

「…車つかってお前ん家出たのか?」

「…うちの車はつかっていないようだった…。
タクシーか、または…」


いつ出ていった、交通手段は…


未礼は、うちの使用人にも会わずにいなくなったようで、
さらに私も、桧周のところに戻ったということで安心し、確認を怠った。


血の気が引いて蒼白していくのがわかった。


「…っざけんな!!
ハンパなことしてんじゃねェよ!
面倒見きれねェなら最初っから引きうけんな!」



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