我妻教育
「単刀直入に聞く。未礼と会わなかったか?」

私は、桧周たちの身体のすき間から、三津鉢の様子を見ていた。


桧周の質問に、三津鉢の表情がかすかに固まった。


「…知らねェよ」
目をそらした。


「知ってんだな」


「知らねェ」


「嘘つくなよ」


「知らねェっつってんだろ、どこ行ったかなんてよ!!
俺には関係ねーよ!!」



三津鉢が怒鳴ると、周りの連中も絡む。

「しつけー野郎だな。
三津は知んねぇっつってんだから、とっとと帰れよ」


「ザコには用はねェ。
俺らは三津鉢と話してんだ。引っ込んでろ」


「何だと!」

男が桧周の胸ぐらを掴む。



一触即発の空気が店に充満した。




「シラけた。俺帰るわ」

三津鉢がこの場を離れようとした。



「待て!」


「啓志郎くん!」

九地梨が、私を制しようとした。

だが、私は三津鉢の前に立ちふさがった。



三津鉢は、見下すような目つきで私を見た。

「…何だよ」


「未礼について知っていることがあるなら話してくれないか」


「ガキが来るとこじゃねーんだよ」


「質問に答えるんだ」



三津鉢は、何か知っている。

直感がそう言っていた。


さらに、今後未礼に対する付きまといもやめさせなければ。



「答えるまで帰すわけにはいかない」


「うぜンだよ!!どけ!!!」


「…っ!!」


三津鉢が、押しのけるように私の肩をついた。


突き飛ばされた私は、テーブルにぶつかり、
あっけなく地面に尻もちをついた。



押された強さに、こらえることすらできなかった。


運の悪いことに、グラスが落ちて割れ、倒れた勢いで手をついてしまった。

飲料水ににじみ、床に血が広がる。




「てめェ!!」

桧周が三津鉢を殴りつけた。



それが戦闘開始の合図であったかのように、
若者たちの激しいもみ合いがはじまった。



九地梨と釈屋久も桧周に加勢し、地下の煙たい飲食店は、乱闘騒ぎで騒然とした。




< 82 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop