我妻教育
飛びかう罵声。

悲鳴。

ぶつかったり、何かが落ちて壊れる音。

慌てて駆けつける店員。

そして、身動きすら取れず、
ただ見ているだけの私。




頭に血がのぼった喧嘩のさなかにおいても、
小学生の私に手を出そうとする者などいなかった。




そう、日々の稽古など何一つ役には立たなかった。


なすすべもなく、完全に、かやの外だった。




私は、無力だ。





実際のところ、
多勢をものともせず、駆けつけた店員が止めるまでもなく、
乱闘騒ぎはすぐに終息した。



圧倒的に桧周たちが強かったからだ。


その強さにすっかり三津鉢たちは、戦意を喪失したようだ。

倒れ込んだまま震えている。



外野からは、もはや加勢する者もいなければ、
「つまんねーな」と呆れ声すら聞こえた。




桧周は、鼻血を出しうずくまる三津鉢の胸ぐらをつかんで無理矢理ひっぱり起こした。

「未礼は?」


「…っとに、知らねんだって」


桧周が、つかんだ胸ぐらにさらに力をこめると、
三津鉢は、怯えて助けをこうように叫ぶ。


「やめろって!マジだって!
マジで未礼がどこにいんのかわかんねーんだって!」

声は、もはや泣き声だった。
かすれて、息がきれている。


「確かに昨日の晩、未礼に会ったよ。コンビニでよ。
どっか行かねェかって誘ったら、いきなりあの男が…!!」


「男?!」



その言葉に、私たちは凍りついた。



「そうだよ、なんつーか、
すっげえ怪しい男が未礼を連れてったんだよ」



「どんな男だ!!」

蒼白した桧周が、三津鉢を揺さぶる。






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