我妻教育
私を尾行してきたようだ。

不愉快そうに琴湖は、ため息をついた。


「何かあるなら言ってくれよ!!水臭いじゃないか!!」

ジャンも不満げだ。



「2人を煩わせるようなことではない」



「言えないような、やましいことなのですか?」

2人は、私に対して疑惑に満ちた眼差しをむけた。


仕方なしに答えた。

「…未礼がネックレスを紛失したようなのだ。」


「悪者から逃げるときにかい?!」

「ああ」


「二日前の夜の話ですわ。
もう警察に届けられているかもしれませんわよ」


「その可能性も考えて、家の者に確認してもらった。落とし物のネックレスは、警察には届いていないようだ」


「すでに誰かに持ち去られてしまったあとかもしれません」


「…その可能性は高い」


そうなのだ。
今頃探したとて、もはや手遅れかもしれぬ…。

…だが…。



「それでも、万一の可能性を信じ、探すつもりだ」


「そうだネ!可能性があるかぎり探すのがベストだ!」
ジャンが力強くうなずいた。


反面、琴湖は冷静に携帯電話の地図を見ながら言った。

「この道を通って公園へ行ったんですか?
公園の中も広いですけど、目星はついてらっしゃるの?
未礼さんに、詳しく道順をお聞きにでもなったのかしら?」



「…いや。
とにかく、未礼が通ったと考えられる場所を、しらみつぶしに探していくしかない」


「これ程の広さをあてもなく、しらみつぶし?!」

琴湖は、考え無しの私を嘲った。

「無計画であんなに小さなアクセサリーが見つけられて?」


「仕方ないだろう」

私はムッとして言い返した。



「未礼さんを呼んで、通った道を思い出していただくのがいいのではないですか?」



「…いや、未礼は私に、探す必要はないと言ったのだ」





気をつかっている。
強がっている。


そのくらい、私にもわかる。



未礼のことを、ほとんど知らなくても、これだけは私にもわかる。



どれだけ高価で稀少な新しいネックレスを買いあたえたところで、心から喜ぶはずがないことくらいは。

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