我妻教育

2.友の意地

「しかめっつらして、また考えごとですか?」


顔を上げると、教科書を胸の前でかかえた琴湖がいた。


「レフトハンドのケガの調子はどうだい?」

ジャンも一緒だ。


「ああ、大丈夫だ。2人とも、昨日は迷惑かけたな」


「気にするナ♪トモダチじゃないか」

ジャンがウインクした。


「私たちが勝手にお手伝いしただけですから。
それよりも、次の授業は理科室に移動ですわよ」

琴湖は周囲を見回し、私をうながした。



教室にはもはや我々しか残っていなかった。

時計を見ると、休み時間が終わりそうだ。



「啓さま、急ぎましょう」


私は慌てて机の中から教科書を探す。


「先に行っててくれないか」






机の上に出した教科書を、再び机の中に戻した。


誰もいない教室を1人で出た。







道路沿いのコンビニ前でタクシーをおりた。


携帯電話のウェブで地図を見ながら、公園を目指すのだ。


我が町で1番大きな公園が、この[コンビニフレンドリー]から歩いて2分ほどの近い場所にある。


公園までは、民家が並ぶ。


道順までは知らない。


だが地図によると、公園までの道順は、ある程度限られているようだ。


問題はこの広い公園だ。


ボートに乗れる池があり、アスレチックがあり、散歩道があり、陸上競技場まで完備された大きな公園。




まずはコンビニから1番近いルートで公園にむかうことにした。




昨夜の説明を、事細かく思い出そうと神経を集中させた。



“公園までの道のりで携帯電話の電源が切れていることに気づいた。

公園内でも何度か携帯電話を取り出し、連絡を取り合うふりをしていた”



とすると、つまりどこで落としたのか、もはや特定できない。



ウェブ画面が着信に切りかわった。


家の者からだった。






「何かお探しですか?」


携帯電話をきり、歩み出すと、背後から聞き覚えのある声に呼び止められた。


「…琴湖、梅乃木」


「また、お一人でコソコソと。今度は何です?」

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